見出し画像

雪の朝 [詩]

目覚めた頃には
ひとつふたつと舞い落ちていた粉雪が
やがて視界を覆うほどの
大きな粒となって降りはじめた
新居から眺める街の景色が
徐々に姿を変えていく

街路樹 道端の花壇 線路わきの土手 
月極駐車場に停められた乗用車 
不規則に並んだ家々の屋根
夜の眠りの中で凍えきっていたものたちから
まるで天からの恩恵の様に
白い真綿のような雪の衣をまとっていた

  ふと 残してきたものたちが脳裏に浮かぶ
  「くれぐれも身体には気をつけて」
  怒るでも 罵るでも 泣くでもなく
  氷の様に冷たく透き通った言葉だけを背中越しに聞いた
  もう「ただいま」と あの家の玄関をくぐることはない
  長い時間をかけて少しずつ手にしたものを
  私はすべて棄てて ここにきたのだ

窓を開けると北風が吹いているのを感じる
みぞれの予報がはずれたのは
この冷たい風のせいだろう
雪のひと粒ひと粒は さらに大きさを増して
いつもなら遠くに佇んでいる高層ビルも
深い靄に包まれてはっきりとは見えない
それらはまるで異国の蜃気楼のようでもあり
まだひどく曖昧な未来を暗示しているようでもあった

※読んでくださりありがとうございます。
久しぶりに本格的な雪模様。窓から降る雪を眺めながら綴りました。




いただけたサポートは全て執筆に必要な活動に使わせていただきます。ぜひ、よろしくお願いいたします。