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大袈裟なプロローグ

押上からスタートした会社帰りのウォーキング。

スカイツリーの麓で背後から「マダラさぁ~ん!」と女性の声。こんなところで知り合いがいるハズもないんで無視を決め込んだものの、そんな意思が伝わるワケはなく、靴音は軽やかに近づいて来る。

満面の笑顔で振り返ると、「素通り~~っ」なんてベタなオチを思い浮かべほくそ笑みつつ無視を続けていると、徐に肩を叩かれた。

「えっ!俺なの?」

振り返るとそこには、10年後の剛力彩芽と15年前の井森美幸を足して割ったような女性がちょっと息を切らして立っていた。

ブルーのストライプの服。明らかに季節外れだ。ただ、どこかで会った気がする。ありがちな出会いのシーンだなと自らにツッコミを入れていると、

「これ、落としましたよ」

差し出されたのは見覚えのある定期入れ。いや、紛れもなく俺の定期入れだ。状況を飲み込めず、呆然とする俺に気づいたのか、

「落として気づかずに行ってしまったので…」

中身を見てしまった事、大きな声で名前を呼んだ事を彼女は詫びた。Suicaに書いてある名前を見て咄嗟に叫んだのだろう。なくして再発行の手続きを取る手間より、街中で大声で名前を呼ばれる恥ずかしさの方が幾らかマシだ。

礼をいい、改めて彼女の姿に目をやると、疑問が解けてゆく。今しがた、コンビニでフリスクを買った。Suicaで支払ったあと、そこで定期入れを落としたんだ。季節外れな彼女の服装は、ローソンの制服じゃないか!道理でどこかで会った気がするワケだ。

クリスマス前のドラマチックな出会いに発展するハズもなく、押上から吾妻橋⇒浅草⇒田原町⇒稲荷町⇒上野という、華もないウォーキングコースにとっては、大袈裟なプロローグだった。

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