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蛇腹 ①

札幌市の中心部から北東に車で20分程のところに丘珠空港という小さな空港がある。もともと陸上自衛隊の飛行場だったのが、北海道内の都市とを結ぶ民間の小型機の発着にも利用されるようになった空港だ。
「おかだま」と読むのだが、その漢字表記にはどこかエロスなイメージを抱くのは私だけだろうか。字が違うというツッコミはごもっともだが、丘と玉だ。
性的な単語を調べるのに、国語辞典を漁っていた中学生時代の私がこの空港の名をを知ったら、どれだけ興奮しただろう。
タイムマシンに乗ってその頃の自分にそっとこの名を耳打ちしたら、今の私は存在していないかもしれない。伝えてしまったら最後、教えなければよかったなどと後悔すらもできなくなる、書き古されたパラドックスだ。
察しのいい方はお気づきかもしれないが、伝えたい丘珠空港の事ではなく、例の都市伝説に関することだ。

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年の瀬の買い物を終え、店主から言われるままにアーケードのテントに向かった 。
「特賞は熱海の旅行券だから!」商店会長と思われる白髭混じりの男の威勢よい声は、僕のモチベーションを挙げる微力にすらならなかった。定期券を改札のタッチパネルに触れるようにさっきの店で手にいれた抽選券を商店会長に渡し、抽選機を回した。

「カラーンカラーン」
ベルの音が響くとアーケードの喧騒が4分休符の間ほど静まり、だがすぐに元の賑わいに戻った。
「出たぁ~!特賞が出ましたおめでとうございま~す」
興奮する商店会長をよそに、眩暈を起こしたのか、テントに張られた紅白幕の縦縞がぐるぐると「なると」のように渦巻きながら視界が白い飛沫に包まれる如く気を失ってしまった。

…つづく

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