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紅茶詩篇『りんごはうつくしい』

 りんごはうつくしい

 完全なる果実の意識体

 朽ちることを嫌う霊界の果実

 うつくしい者が魅せられてやまない輝き

 甘くさわやかな果実

 滴る甘い血液

 喉が上下する

 冷たい水を飲んでいるときのように

 どうしてりんごは

 枯れそうなときに飲む水のような形をしているのだろう


 りんごはうつくしい

 神秘なる意識の集合体

 腐ることを嫌う霊界の果実

 うるわしい者が魅せられてやまない艶めき

 甘く淑やかな植物

 薫る甘い花の匂い

 迸る甘い香気

 喉が上下する

 甘さと水分に飢えているときのように

 どうしてりんごは

 脳が枯れそうなときに求める花のような香りをしているのだろう


 りんごはうつくしい

 呆けると砂になろうとする

 砂のようにさらさらとした果肉になろうとする

 地面に吸い寄せられて傷を負っても

 りんごは腐らない

 りんごは熟れない

 りんごは朽ちない

 きっと霊力ある果実だから

 死んだりんごの墓場

 死んだりんごの砂漠

 砂になろうとする果実

 魔物をも魅せる果実だから

 死と親しいのだ

 砂になろうと呆けてしまっても

 これに毒があったならと思わせるほどに

 あれにいっぱい喰わせてやりたいと思わせるほどに

 噛まれて息絶える毒を尻目に

 囓って崩落に陥る耽美主義

 うつくしい者の死に様に相応しい果実

 毒の無い愛らしさを

 毒素として孕んでいる魔性

 柤の実だからか

 気高く微笑んでいる

 例え美貌が烈しく砂になろうと

 聖水を含んだままの姿で蠱惑的に佇んでいる

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