ほんとにほんとにほんとにはじめての、人間工学
こんにちは、ロイです。社会人大学院生として研究する生活を目指してさまざまな学習に取り組んでいます。目指している背景については過去記事で取り上げているとおりなのですが、私が興味を持っているのは人間工学と呼ばれる領域です。
ただし、この人間工学は大学によってまとまった講義が開講されていないところも多く、とりわけ社会人になってから学ぼうとすると、体系的に学ぶチャンスや場面が多くありません。業務上でプロダクト開発をしていたり、ウェブサービスを提供していてUIUXの研究を重ねているような場所でなければ実践的に検証をして訓練をするのも難しいでしょう。私自身もその難しさを感じている一人でして、どうせながら基礎的なところや部分的なところも含めてノートにまとめながら共有していこうというのが背景です。
身の回りの人間工学
さて本題に入る前に、身の回りの事例を紹介してイメージをつけていきましょう。私はもちろん皆さんの周辺にも人間工学に基づいて設計されている製品がありそうですが、私は今打ち込んでいるキーボードが該当します。
このキーボードは2005年に発売されたものでエルゴノミックキーボードと呼ばれています。エルゴノミック(Ergonomic)とは人間工学に基づいたという英単語であり、人間にとって使いやすいように設計された製品です。
ただ「人間工学に基づく」とはどういうことなのか、少し分かりづらいですね。ここからは歴史を追いながら基礎を理解してみましょう。
人間工学の基礎
人間工学(エルゴノミック)の原点
さて人間工学を知るために、まずは専門ウェブサイトの解説を見ていきましょう。ここでは一般社団法人 日本人間工学会の解説をお借りしています。
言い換えれば「どれだけ少ない負担で行動できるか」ということですが、「エルゴノミック」という言葉の歴史は1800年代まで遡ります。日本人間工学会は次のように説明をしています。
1857年の日本では日米修好通商条約が締結されており、松下村塾が開塾されています。また翌年には尊王攘夷運動が行われるなど、文明開化に向けた激動の時代の幕開け場面といったところでしょうか。また次のような解説もあります。
この書籍では金属鉱山の労働者の流行り病として粉塵による呼吸器疾患の他に、不自然な作業姿勢による身体への影響をしてきしています。産業革命が始まる18世紀の主な命題として労働と健康の関係性の解明が急がれてきました。
しかし労働による疲労の計測や科学的な管理原則の研究が実際に始まったのは20世紀初頭です。ポーランド出身の科学者が「労働科学の方法」という書籍を発刊し、方法論が初めて詳細に記載されました。
Human Factors
ここまで人間工学(エルゴノミック)の歴史を見てきましたが、実は人間工学にはもう一つの潮流があります。それはHuman Factorsと呼ばれる、第二次世界大戦移行のアメリカを中心とした研究活動でした。
これは空軍機の激突事故などが多発した時期に始まった研究で、心理学や航空工学の専門家らによって推進されています。この話題は日本人間工学会のサイトに説明があります。
航空機の運転中という極めて集中力の必要な作業中には、脳の負担が少ない情報取得が求められます。昨今でもハイブリッドカーのシフトレバーによる誤操作が話題に上がっているとおり、人間の処理能力には限界や誤解がありますから、Human Factorsはそれらのヒューマンエラーを防止する製品設計を追求するものとなっています。
人間工学の社会的な役割
ここまでで人間工学の主な歴史を学びましたが、実際に人間工学は社会においてどのように役立っているのでしょうか。ここまで読まれた読者様の中にはすでにGoogleで「エルゴノミック 製品」などと検索している方もおられると思いますが、実際に大小様々な場所に反映されています。
私達にとって身近な例ではありませんが、先程のHuman Factorsの研究に関連する部分で、航空機のコックピットの操作盤にも特徴が見られます。操作盤は飛行機全体を操作するための非常に多くのボタンやパネル、レバーがあり間違えてしまいそうになります。もちろん、それを間違えないようにしなければ大事故に繋がりますから、できるだけ間違えないような工夫がされています。実際に車輪を出すレバーは以下のような車輪の形をしており、文字を読まずとも見てわかる設計となっていますね。
この例や冒頭の鉱山作業者の例でわかるように人間工学は、安全や安心、快適や健康の保持、向上に貢献する実践科学です。日本人間工学会では、これらを体系的に整理し、次のようにまとめています。
人間工学が対象としているのは人間を中心とした4つの分野、「コミュニケーション」「労働」「移動」生活」です。そしてそれぞれを横断するように次の項目があります。
作業/仕事
道具/機器
モノ/作業場などの設計
物理環境
組織/マネジメント
文化/慣習/法規
先程挙げた航空機のレバーは、労働分野における作業の領域ですし、冒頭紹介したキーボードは労働分野における道具の領域です。工事などでの騒音軽減は作業場の設計領域ですし、コミュニティ運営という点でいえば組織/マネジメント領域が該当します。このように人間工学は人間と物理的なモノはもちろん、人間と人間の間にある見えない関係性にも及んでいることがわかりますね。
ユニバーサルデザイン
基礎(といってもほんとにスタートライン上ではありますが・・・)の理解の最後に私達にとって身近な例としてユニバーサルデザインを紹介します。NICT(情報通信研究機構)は次のように説明しています。
ユニバーサルデザイン(UD)は基本規格にもまとめられた考え方で、できるだけ多くの人が負担なく利用できるように配慮された設計のことを言います。逆に言えば「どんな状態の人でもわかりやすい設計」ということです。例えばシャンプーとリンスのボトル。お風呂の中で頭を洗っていると湯気などで視界が悪くなりますが、シャンプーとリンスはボトルやパッケージが似ていますから多くの人が間違えやすい状態になります。実際に1990年に日用品メーカーの花王が調査した情報によれば約60%のが間違えた経験があると回答しています。
そしてこの後、盲学校等での訪問調査を経て「触ってわかる識別方法」として実装されたのが特殊な突起です。その後花王が業界に働きかけをしたこともあり、いまではすべてのシャンプー容器の側面にギザギザの突起がつくようになりました。消費者の多くは間違えて使うことがなくなり、目の見えない人も安心して商品を使えるようになった代表的な例です。
こんなところにも、あんなところにも人間工学
さて、今回は「ほんとにほんとにほんとにはじめての人間工学」ということで、基礎の基礎の原点、スタートライン上から情報をまとめながら知るというプロセスを進みました。途中いくつかの事例を挟んだことで、頭の中のイメージと新しい知識が結びついていったのではないでしょうか。
大量生産、消費の時代を終えて私達の身の回りには長く安心して使いやすい製品が普及しています。あなたが手に取っているモノ、今見ているスマートフォンやパソコンの画面のソフトウェアにも人間工学がきっとたくさん溢れています。そこには色やフォントの種類、ピクトグラムアイコンの使い方など非常に沢山の人に優しいエッセンスが含まれているはずです。
今後の学習の再スタートの意味も込めて、まずは自分の身の回りにあるものを見渡して考えてみることから初めるのはいかがでしょうか。
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