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ぼくはだれに「文章の書き方」を教わったんだろう

おかげさまで、編集協力で参加させていただいた『10年後の仕事図鑑』(堀江貴文、落合陽一共著)『日本進化論』(落合陽一著)が同日重版との嬉しいニュースがあった。(それぞれ14刷25.4万部、4刷9万部)

ありがたいことに、現在も多くの書籍のライティングを担当させていただいている。(その一冊一冊には、プロダクトを丁寧に作り込んでいく感覚があり、早く世にリリースしたい気持ち)

でも、ふと立ち止まって考えてみると、ぼくはだれに「文章の書き方」を教わったんだろう。一介のフリーランス・ライター/編集者として活動する自分が、今こうして本を書かせてもらえるようになったのは、どんな経緯があったのか。いま、客観的に振り返ってみることにする。

鬼軍曹の商業文章講座!鉄拳制裁付きだ!

6年も前のEvernoteを掘り起こすと、そんなタイトルのメモが出てきた。(実際にはめちゃくちゃ丁寧にやさしく、手取り足取り教えていただいた)

そう。何を隠そう、僕がはじめて商業ライティングの基本を師匠に教えてもらった日にとったメモのことである。

メモの最初には、こんなことが書いてある。

商業用文章は「おもてなし」である。

いま考えると、プロとして文章を書く上で、これ以上に大切なマインドセットはないのだと思う。絶対に忘れてはいけない心構えである。

もちろんメモのつづきには以下のような、具体のHOWもたくさんある。(懇切丁寧に教えていただき、森さん本当にありがとうございました!)

【駄目だし】
・メーカーの視点に立ちすぎ。
→よりフラットに、メディア媒体サイドを重視する。
・話が戻ってきてしまう傾向にある。(再帰性:一旦説明したものが再び顔を出す)
・「体言止め」2連続はNG。
・文章のつながり(structure)を意識する。
Eg. 潤滑剤としてのDiscourse Markerを使ってみる。
・「である」はなるべく避ける。評論調になる。読者がお客さんであることを意識する。
(塩梅加減)→「〜ということだ」「〜とか」「〜という」

 【「リード」について】
⇒「導入」を図る(結論への呼び水、寸止め)
大きく二通り
①完全なダイジェスト型
②つかみ型
Eg. 「〜とは?」(誘い水)読者とのキャッチボール。

 【オチのセオリー】
・取ってつけたオチはNG。必ず伏線(種)が必要。拡げた伏線は全て回収する。

 【記事の書き方】
・媒体によって異なる「キモ」(ポイント)を抽出する。
Eg. GQ:30歳ビジネスマン/ 男/ 比較的オシャレ/ 忙しい
[開くPCバッグ]
・開いたまま使える
◎いつでも、どこでも
・三角形
・カジュアル
☓デザインが良い(反例としてのルイヴィトン、Globe Trotter)
Eg2. CNET:geeky
◎カジュアル
◎デザインが良い
For example: オフ会でiPadを持ちながら外でFB

媒体ごとに異なるシーンを想像してみる。
媒体の先にいる読者(cluster)が何を喜ぶのか、それにより「キモ」も変わる。

上記の教えは初日に教えてもらったイロハであり、それから継続的に、根気強くライティングの基礎を叩き込んでもらったように思う。

2年前、『独立メディア塾』に寄稿した「Web生まれ、Web育ち、Web編集者の前途」との文章でもこの際のことを書いていた。

私がはじめて商業媒体向けに文章を書くようになったのは、大学生の頃。アメリカ留学から帰国し、あるPRオフィスでアルバイトをすることになった。「長谷川くんは、何に興味がある?」と尋ねてくれた社長に対し、「文章を書くのが好きです」と答えた。そこで、『GQ JAPAN』ウェブで記事を書く機会をいただき、定期的に文章を書くようになる。「鬼軍曹の文章講座」と銘打ち、(実際はとても優しい)社長が丁寧に商業文章の書き方から、校正記号の読み方まで教えてくれた。紙媒体で長らくライターをしていた社長に、はじめのイロハを教えていただけたことが今でも、文章を書くことのバックボーンになっているのではないかと思う。

いまこうして、べつのだれかに技術を継承できているのは、ぼくもまた師匠に教えてもらったことを自分なりにアップデートしてきたからだと思う。

今回は、改めて深く、いまの仕事のルーツを内省しながら振り返っていきたい。

『美女と野球』ーー自分はなにを、自分の視点で語れるか

上記の通り、ライティング基礎のバックボーンを授けてもらってからは、フリーとして仕事もいただけるようになった。ちなみに「長谷川リョー」と名乗るようになった経緯も『独立メディア塾』に記していた。

「長谷川リョー」と名乗るようになったのもこの頃からかもしれない。『週プレ』では危うい企画の取材・執筆をすることも少なくなく、なんとなく本名をクレジットに記載することにためらいがあった。たとえば、都内にある坊主バーを取材したときのことだ。坊主と女子大生の合コン「坊コン」なる企画の取材を任されたのだが、記事が掲載されるまで、企画趣旨の認識が坊主バーの経営者とすり合わされていなかった。後日、編集部に「次号に謝罪文の掲載を求める」抗議文が届いた。このときは「出入り禁止」で済んだが、よりきわどい企画のときは、身に何があってもおかしくない。そんな経緯で、メディアのなかでは「リョー」を使い続けてきた。

先日登壇させていただいた「朝渋」でも軽く触れたが、『週刊プレイボーイ』で記事を執筆する上でも多くの学びを得ることができた。(来週くらいにはレポート記事が出るはず)

一つ前の見出しでいくつか列挙した、文章を書く上でのHOWにくわえ、そもそものWHAT、書き手ならではの視点を磨き込んでいく必要がある。

当時の副編集長に「まずは、これ読んどけ」とオススメされたリリー・フランキーさんの『美女と野球』は僕のバイブルであり、弊社に入ってもらった子たちにはみんな薦めている一冊だ。

ランニングハイで、レピュテーションの資産を築いていく

一書き手としては、まだまだ若輩者で未熟な自分ではあるが、これまでWEBや雑誌、書籍を通じてでたくさんの文章を書かせていただく機会に与った。

とりわけ、立ち上げから参画し、現在は編集長を務める『SENSORS』での経験はいまの自分、そして経営するモメンタム・ホースにとってはなくてはならない媒体である。

毎日のようにだれかに取材し、毎日のように記事を書き、なかばランニングハイ状態で研究もそっちのけに(当時は大学院生だった)記事の執筆に勤しむ毎日。たくさんの出会いにも恵まれた。

とりわけ今回のnoteの主題にも大きく関わることになる、グロービス・キャピタル・パートナーズの高宮さんと出会えたことは、すべての始まりとさえ言えるかもしれない。

自分としては、毎日書いていた記事と同じように、(ある意味で)何気なく書いた記事の一つだった。それでも原稿確認の際、「これまでで一番、赤字修正が少なかった」とお褒めいただき、現在に至るまでお仕事をご一緒させていただいている。

今一番旬なライター/編集者の長谷川さん。すごく今風(disではなく良い意味で)の生き方で、ミレニアルのロールモデルになるだろう。

学生の頃から、自分の好きなこと、得意なことで、レピュテーションやネットワークの資産を築き、ピンで立てるプロフェッショナルとして腕を磨いた。

そして、自分の時間を切り売りして、生業として仕事をして、お金をもらうところから、自分のやりたいことを突き詰めている結果としてお金もついてきている。

今の時代、ネットのインフラがあり、複業、プロジェクト的な仕事がしやすくなり、今後このような生き方がどんどん増えていくだろう。

去年末に応えたインタビュー「誰もが「1回目の人生を生きている」。注目の若手編集者が“人生の空白”で見つけた原理原則」について、高宮さんより上記のコメントを頂戴したが、そもそも高宮さんに出会っていなければいまの自分も、このインタビューもなかったので感謝しかない。

本を構成する、ストラクチャーVSストーリー

当時、WEBを中心に記事を書いていた自分に「本を書きませんか?」と声をかけてくれたのが高宮さんだった。

とはいえ、記事は書いたことはあっても、本を書いたことはない。
もちろん不安はあったが、ダイヤモンド社の編集者(いまもお仕事をご一緒させていただいている)横田さんが「大丈夫ですよ」と背中を押してくれた。

高宮さんと、横田さんとチームを組んで、(取材は10回以上?)ゴリゴリと書籍の制作を進めていった。(まだ出ていないのですが、今年こそ出版されるはずです!もう少々お待ちください!笑)

先述の『独立メディア塾』でも、当時の学びに触れていた。

出版社の編集者の方から学べることを一言でいえば、「構成力」に尽きるのではないかと思う。あるテーマに基づき、10万字前後の分量で1冊にまとめるためには、Webにはないあらゆる筋力が必要とされる。良本とされる本の目次を注視すると一目瞭然であるが、最初から最後まで一気通貫した論理の筋が綺麗に揃っている。説得的なストーリーテリングの背景には、論理構成に間隙のないストラクチャーが組み込まれているのだ。

商業ライティングの基礎については冒頭で触れたとおりで通りであるが、書籍ライティングについては横田さんに教えていただいたことがぼくのバックボーンになっている。

話が長くなるので割愛するが(笑)、お二人と書籍を作り込んでいくことも一つのきっかけとなりリクルートを退職し、いまの仕事に専心することになった。

『10年後の仕事図鑑』『日本進化論』、そしていま新たに別の書籍でご一緒させていただいているSBクリエイティブの編集者・多根さんからも実にたくさんのことを学んだ。

ぼくのような制作サイドの人間にも懇切丁寧にこまめにコミュニケーションをとってくださる仕事の進め方や、本を世に広めるための考え方。「《自分の半径一メートルに刺さる企画》を探す」「イオンで売れる本を意識する」など。(先日、機会がありある媒体で多根さんに取材させていただいたので、記事が出たらまたお知らせします!)

去年のビジネス書ベストセラー年間ランキングのベスト5のうち、『大人の語彙力ノート』『10年後の仕事図鑑』『1分で話せ』を多根さんが手がけられている。一人の編集者が上位3冊って異常です。凄すぎます。

長い文章を書くコツは、立ち止まらず、走り抜いてみること

これは持論だが、だれでも訓練すれば80%まで(技術論として)文章を書けるようになる。ただ、たった100文字の文章も、100人(いや、1000人)が書いても、どれ一つとして完全に同じにならないところに、ライティングの妙がある。80%からその先は、90%αだったり、90%βだったり、それぞれのセンスで100%に向かうのだろう。

自分なりの長い文章を書くコツは、立ち止まったり、息継ぎしたり、考えたりしないで、とりあえず走り抜くこと。手を止めない。難題にみえた箇所も、走り抜いて、あとから戻るとなんでもなかったりする。何度でも往復して、回転数を上げる。そうすると、一個一個立ち止まるより、結果的な総時間数が縮まる。

「考える」はあくまで原稿外の生活に溶け込ませ、磨く。それを怠らなければ、いざ原稿に取り掛かる際の、瞬発力に転化していて、その場で立ち止まる回数が減る。ライティングによってライティングを磨く以外に、原稿外でライティング力を身につける視点。

とはいえ高度な話ではあるので、自分の場合は連載『考えるを考える』でこれをテーマに、さまざまな人々にお話を伺っている。(これもいつか本にできたら嬉しい)

書籍とは別のところで、対談の構成でぼくがめちゃくちゃリスペクトしている二人が稲葉ほたてさんと、長谷川賢人さん。

稲葉さんが手がけられた『電ファミニコゲーマー』の超長文記事は、圧倒的長さを感じさせない仕掛けがたくさん盛り込まれていて、読む度に発見がある。

長谷川賢人さんの構成記事は、現場やしゃべっている人の空気感が、文面を越えて心地よく伝わってくる。(『クラシコムジャーナル』のお仕事はどれもまじで素晴らしいです!)

そんなわけで、弊社では長谷川さんの文章から学ぶことを推奨している。

(今度ぜひ、弊社で勉強会の講師お願いします!笑)

こうした構成の妙は、まさに先ほど述べた「80%からその先は、90%αだったり、90%β」のアルファであり、ベータに他ならない。

技術としての80%にたどり着いてから、ライターはその先にあるセンスやオリジナリティを探求する旅が始まるのかもしれない。

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(2/17 追記)

タイミングよく一番弟子の小原くんもnoteを書いてくれました。



ケニアで無職、ギリギリの生活をしているので、頂いたサポートで本を買わせていただきます。もっとnote書きます。