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僕は君に愛され、君と共に生き、君によって死ぬ


僕は君に愛されたい

予め指定した人格を埋め込むことができるロボット。
主人への感情や関係性も自由に決めることができるため、友達や恋人はもちろん、親や兄弟代わりに求める人や、ちょっとグレーだけどそういう嗜好を欲する人たちの間でも使われている。

基本的にその関係性は変わることがないけれど、一応機械ではあるから、故障などでうっかり変化してしまった時のために、再設定機能も3回まで用意されている。
それ以上過ぎて変調をきたしてしまった時は、買い替えるしかない。
稀に、変化をうけいれて、ボディが壊れるまで使い続ける人もいるらしい。

ちなみにボディも、予め自由に設定することが可能だ。
ただ中身の設定とは別で、専門技術がなければ業者への依頼が必要だし、それなりに費用もかかる。
だから、一部の人は中身のみにすることもある。
その場合は、たまにスマホやパソコンなんかに繋いで、「その人が普段はロボットの装甲に身を包んでいる」なんて設定でやりすごすんだとか。スマホとかに繋げば、中身=イメージを映像として出せるから、本体をアレンジするよりもコストがかからない。

そんなロボットを、僕も購入した。
あの子に出会うために。
本体のデザイン込みで発注し、関係性もそのまま。
一生をかけて、愛し続けると誓う。

君は僕と生きる




僕は君によって死にたい

ロボットの設定変更は、故障していない状態でも行うことができる。
ロボットが今まで得た知識や経験など、主人への感情・関係性以外の部分は、壊れていなければそのまま残すことも可能なので、暮らす中で違和感を得た人が再設定をすることは少なくない。
もっとも、3回という制限は変わらないから、いざ壊れた時に元に戻すチャンスを失うリスクもあるから、少しの差なら我慢するという人もいる。
その方が、より「本物」らしいという考えもあるぐらいだ。

そして、僕はその1回を使う。
彼女が壊れたわけではない。
どちらかと言えば壊れそうなのは僕の方だ。
変わらずボクと書いてはいるが、世間的にはもう「儂」でも違和感のない年齢。
加えて、気づかない間に進んでいた不調のせいで、平均寿命よりも早くお迎えが来そうだから。

ここで、彼女と僕の関係を見知らぬ人、あるいは多少付き合いがある近所の人程度の変更を施すのが、優しいのかもしれない。
そもそも、変更ではなく停止を選び、業者へ帰すのがより正しいのだろう。
(このロボットはリサイクルが推奨されており、粉々になるなどの致命的な破損さえなければ、業者へ返還が求められる。業者の元に戻ったロボットは機能を完全に初期化され、メンテナンスの後新しい希望者の元へと送り出される)

でも僕はそれをしない。
あるいは、僕の死後に、彼女に何ら問題がなければ、見つけた人が所有するか返すかをするかもしれないが。

今の僕が選ぶのは、彼女の怒り、恨みの改変。
表向き円満関係を装ってはいるけど、僕が憎くて仕方がない、僕の自然な病死を待つことも許せないぐらい。そんな関係性。

だって僕は、病気に殺されるのなんてまっぴらごめんだ。
正直に言うと、寿命、老衰にすら殺されたくない。
でも、今の科学水準では、僕がこれ以上生きることはできない。
だからせめて、彼女に奪ってもらうことにした。

ああでも、手段はちょっと考えてもらいたいな。
刃物沙汰とか、明らかに彼女の慈悲が世間に知れ渡ってしまうような方法はダメだ。
初期化すればいいとはいえ、状況として傷のある彼女は、きっと次の引き取り手もなく処分されてしまうだろうから。
それは、こんなことをさせようという今の僕でも、流石に心苦しい。
世間でいうところの、事故か自殺に見せかけてというやつがベストかな。

でも願わくば、最後の最後まで、彼女が僕の傍で、見守っていてくれることを願う。



next? 私は貴方によって生まれ愛され、そして……

memo 僕もロボットだった、彼女はニンゲンだった可能性?
>ただの奇妙な世界ルート

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