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4-5.オランダの苦悩

オランダ東インド会社の変化

オランダ東インド会社は苦しい局面に陥ります。幕府の貿易制限により、入手できる銀や銅が減少したからです。アジア域内貿易だけで利益を得ることが難しくなってきたのです。インドで入手していた「綿織物」は、ヨーロッパで人気を得るようになって価格が高騰し、物価の安い東南アジアへ持っていくことが困難となりました。政情不安により、それまで「金・銀」の入手先だったペルシア(現イラン)の商館からもそれが不可能になります。

そのため18世紀初頭から、アジア域内貿易は赤字に転落してしまいます。アジアの商品を購入するためにオランダ本国から「貴金属」を持ち出さざるを得ない事態になったのです。17世紀のほぼ100年間は、オランダから持ち出される貴金属は年平均で約130万ギルダーだったのが、18世紀のそれは約470万ギルダーと3.6倍にも増加しています(出所:「東インド会社/羽田」P318の表より)。

英蘭戦争

それだけではありません。オランダは、前世紀半ばからイギリスと度々戦火を交えており、1672年には、対イギリス・フランスとの戦争(第3次英蘭戦争)で、本国南部領土の一部の占領を許すという苦境に陥りました。

※英蘭戦争は1次から4次まで(1651年から1784年)あり、北米大陸を舞台に1665年から始まった第2次英蘭戦争の結果、それまでの「ニューアムステルダム」が「ニューヨーク」になった。
 
その情報は東南アジアまで伝わり、敵対する王朝や東インド会社によって貿易活動を妨げられていた海賊たちが、同社に対して攻撃をしかけるようなったのです。同社は、十数年かけてその戦いに勝利しますが、その後に残ったのは敗北させた王朝の支配していた領土です。

ジャワ島の一部が直轄領、もしくは従属下においたマタラム、バンテンという王国を通した間接的な支配地となったのです。彼らは、営利目的の株式会社です。したがって、領土の支配は彼らの本意ではなかったと思います。莫大なコストがかかるからです。これを、オランダの歴史家ハーストラ氏は「ためらいがちな領土拡大」と呼んでいます(出所:「東インド/羽田」P319)。

面の支配へ(植民地化)

そこで、東インド会社がおこなったことは、売ることができる世界商品の栽培でした。胡椒や香辛料などの希少性を武器とした商品ではなく、中国やヨーロッパなどの市場で大量に消費される商品を自ら作り出すことを目論んだのです。農作物の栽培にはまとまった土地が必要になります。そうして、これまでの「点」の支配から「面」の支配、領域支配に乗り出していくのです。これが、その後に東南アジア諸国のほとんどがヨーロッパの植民地になっていった理由です

ジャワ島でいえば、内陸でのサトウキビ栽培(清から渡ってきた大量の労働者もそれを担った)をはじめとして、この頃からヨーロッパにおいて飲用が一般化してきた「コーヒー」栽培が始められました。本国アムステルダム市場で扱われるコーヒーは、17世紀終わり頃に至るまで、全て南イエメン産でしたが、その利潤の大きいことや、アラビア全域に勢力を及ぼしていたオスマン・トルコ帝国が、コーヒーの海外輸出を制限したことなどから、自ら栽培に乗り出したのです。ジャワへのコーヒーの苗木はインド西部のマラバール海岸から持ち込まれ、18世紀初頭から栽培が始められました。今でもインドネシアはコーヒーの生産量で世界第4位を誇っていますが、その端緒はオランダが持ち込んだことによります。

※ちなみに、1位ブラジル、2位ベトナム、3位コロンビアであるが、全て持ち込んだのはそれぞれポルトガル、フランス、スペイン)

「コーヒー」の悲哀

「コーヒー」の原産はアラビア半島のイエメン。その起源はすべてイスラム教団と密接に繋がっていおり、それを飲むと夜通し礼拝することができるなど、その神秘的な作用(カフェインの覚醒作用)が知られていた。起源としてはそう古くはなく、イスラム世界に出現したのは15世紀後半だという。そしてヨーロッパへ広がったといわれている(出所:「コーヒーが廻り世界史が廻る/臼井隆一郎」P12)。

コーヒーは、1次産品の世界の貿易額において「原油」に次いで2番目の取引額があるほど大きい。しかし、生産国と消費国の経済格差は非常に大きく、国際コーヒー機構(ICO=International Coffee Organization)調査によれば、消費国の国民一人あたりのGDPは平均で33千ドルなのに対し、生産国のそれは34百ドルと、約10倍もの格差である。その格差は、この時代に固定化されたといっていい。想像どおり、生産国はほぼ全てがヨーロッパの旧植民地である。

タイトル画像出所:味の素AGF株式会社Web
https://agf.ajinomoto.co.jp/enjoy/cyclopedia/flow/atoz_05.html

続く


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