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トヨタの入社式は社員の熱量を高める仕掛けが詰め込まれている

先日、トヨタが入社式でスープラのエンジン音を新入社員に聞かせるというニュースがありました。
多くの入社式が行われた4月1日。トヨタ自動車の入社式で、豊田章男社長が語った入社式の全貌がトヨタイムズで明らかになっています。このトヨタの入社式のなかに社員を熱狂させるための仕掛けがふんだんに詰め込まれていると感じたので書きたいと思います。

まず、トヨタの入社式のなかで語られたのは、一般的な会社の入社式でよくあるような入社のお祝いだけではなく、以下のような未来への危機感でした。

冒頭の言葉こそ「おめでとうございます」で始まった挨拶だが、
その後に語られたのは、自動車産業が変わりゆく途上にあるということ、
そして、トヨタも生まれ変わらなければ“終焉”さえあり得るという強い危機感を伝える内容であった。

とし、この時代の変化を以下のような言葉で表現しています。

皆さんは、100年に一度の大変革の時代、トヨタが新しい時代に適合し、生き抜くことができるのか、それとも終焉をむかえるのかという、瀬戸際の時代に入社をされました。希望に胸をふくらませて入社した皆さんに、いきなりこのような話をしてよいものなのかどうなのか。
正直なところ、少し悩みましたが、この現実を受け止めてもらうことから、
会社生活をスタートした方がよいと思い、お話をすることにいたしました。

「終焉をむかえるのか」という問いかけは入社式で語られると新しく入った社員たちはドキッとしてしまうかもしれません。入社式は新入社員に対して将来の希望を語り、社員が不安を抱くような内容は避けるのがふつう。
しかし、今がトヨタの変革期であることを明確に伝え、社員がトヨタを変えていくための「運命共同体」になっていくことを伝えているように感じます。これってたぶん新しく入る社員への強い期待と信頼がないとできない発言だと思います。

僕は、ブランドへ熱狂するポイントは大きく「過去の追体験」「未来への期待値」で構成されていると思っています。
この未来への期待値は、多くの場合キラキラとした希望にあふれた言葉で語られることが多いと思います。しかし、トヨタの場合は期待値をただキラキラした言葉で語るのではなく、未来を実現するために立ちはだかる課題を明確な危機感とともに語っていくことで、そのメッセージがより強調されていると感じました。まさに、「過去の追体験」「未来への期待値」を語ることで運命共同体になるということをやっているのだなと。

過去の自分たちの実績を共有しながら、未来を実現するために、今トヨタがぶち当たっている壁をはっきりと伝えていくことで、トヨタというブランドのストーリーのなかで社員を惹き込んでいっていると思います。

また、入社式の最後にトヨタは新入社員に向けてスープラのエンジン音を聞かせています。入社式の式場に置いてあったスープラに副社長が乗り、会場にエンジン音を響かせます。
これは、入社式で語られた上記のようなメッセージを集大成として「思い出化」していると思います。

未来への危機感を乗り越える勇気をくれるのは、過去のブランドの歴史と実績。それをエンジン音という、トヨタを象徴するかたちで伝えたのは秀逸だなあと感じました。
これ、トヨタだからできるやり方だと思いますが、 豊田章男さんも言っているとおり、社長のあいさつなんてほとんど覚えていないものです。それを強烈なエンジン音を吹かすことで記憶に残るかたちで「思い出化」しているうまい方法だと思います。

今年からトヨタが開設したトヨタイムズは、トヨタという企業のDNAが伝わる濃いコンテンツが多く、学ぶべきところが多い施策です。何より重要なのは用意された原稿を読むのではなく、社長の声で今のトヨタがリアリティを持って語られているということです。

この施策、単なるコンテンツマーケティングではなく、ブランドジャーナリズムとして機能している側面も大きいと思います。これらのコンテンツはブランドの"態度”"表情"を伝えるコンテンツにもなっています。
また、トップが直接語ることで、社長の声で今の課題や展望を明確に伝えるメディアになっているとともに、トヨタのステークホルダーのなかでも社員を強く意識しているんじゃないかと思います。

会社が大きくなればなるほど、社長のメッセージは徐々に聞こえづらくなるものです。このように社長が話す言葉をメディア化し、リアリティのある言葉で伝えることで、ひとりでも多くの社員を共同体に巻き込んでいく、まさに社内に向けたコミュニティづくりとさえいえるんじゃないでしょうか。

これから、より企業の資本が個人によって形成される世の中に向かっていくなかで、会社の規模を問わず個人が発信するPeople mediaが注目されることはまちがいないと思います。そこでは、会社という見えない人格から発せられるメッセージよりも、会社の代表や社員がひとりひとりの言葉で会話をしていくことで、よりリアリティのあるコンテンツを届けることが可能になります。
今後このトヨタイムズがどう発展していくのか、注目していきたいと思います。

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