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そういえば近ごろ

■近ごろ聞かなくなったもの――迷子のアナウンス。

昔はデパートや行楽地に行くと数時間に一度「○○をお召しになった3歳くらいの女のお子さんを○○でお預かりしております」みたいな放送を聞いたものだ。まあ、最近はそんな人混みに行くこともなくなったが、たまに出かける大型ショッピングセンターでも、イマドキまずそんなアナウンスは耳にしない。

これは私が生まれ育った川崎市の昭和45(1970)年の資料映像だが、これだけ子どもがワンサカいたら、そりゃ迷子もたくさん出ただろう。でも半世紀後の現代日本でマイゴになるのは子どもじゃなくて高齢者だ。

私は自分が子どものころ迷子になって保護された記憶はないが、これから先は要注意である。ボケてデパート内を徘徊していても閉店時間まで気づかれないかもしれない。気づかれて呼び出しされても迎えに来てくれる人がいない可能性が高い。ご迷惑をかけます。今から謝っておきます。

■近ごろ味わえなくなったものーーカルメ焼き。

昭和の時代、縁日の屋台といえば必ずこれがあった。同じ砂糖菓子でも個人的には綿あめより好きだった。あの、小さい丸鍋の中でぷーっと膨らむのを見てるのが楽しかった。できたてを口に入れると、舌の上であっという間にホロホロと溶けていく。

あらためて作り方を調べると原料はザラメと水と重曹のみ。シンプルな材料ながら作るのは意外に難しいらしい。素人が作ると膨らまないこともあるとか。歩留まり悪くて屋台から姿を消したのかしらん。

あるいはこれも、最近自分が滅多に屋台など出る場所へ行かないから見なくなったと感じるだけなのか?これをお読みくださった方、カルメ焼き屋台の出るイベントがあったら教えてください。(自分で作れば?という突っ込みはごもっとも。でもあれは屋台で買うからおいしいのだ)

■近ごろ嗅がなくなったもの――ナフタリンの匂い。

以前は衣替えといえばこの匂いだった。私の記憶には商品名よりもナフタリンという化学物質名のほうがインプットされている。と書いてみて、そういえば商品名はパラゾールだったなと思い出したが、調べてみるとパラゾールの原料はパラジクロルベンゼンであり、ナフタリンではないらしい。他に「しょうのう」というのもあって、これは樟(くすのき)から抽出する天然の防虫成分だそうだ。しかし、少なくとも昔の我が家ではナフタリンもパラゾールもしょうのうも、ぜんぶ同義で使われていた。

そういえば、昔のナフタリン防虫剤はハサミで袋の角を切ってから衣装箱に入れたっけ。子どもにもできる作業だったからよく手伝わされた。終わると手からもナフタリン臭がした。

いい匂いだったとは言えないが、あれは季節の変わり目を印象づける匂いだった。でも、今はいつのまにかムシューのものが主流になっているようだ。もちろんハサミなんか使わなくていい。

人間の五感のうち嗅覚からのインプットは相対的に少ないと思われるが、最近はますます嗅覚の出番が少なくなっている気がする。

鼻、退化しちゃわないかな。

五感を通して身体に入ってこなくなったものの記憶はどんどん薄れていく。なので書き留めておく。ただの記録として。ただの思い出として。

再開発中の駅前。建物がなくなったせいで空がやたら広い。

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