放送大学 財政と現代の経済社会(’19)第14回 財政民主主義と予算

「骨太の方針」てなんかのキャッチフレーズじゃなかったんですね・・・

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放送大学 財政と現代の経済社会(’19)
Public Finance and Modern Economic Society ('19)
主任講師名:諸富 徹(京都大学大学院教授)

- 執筆担当講師名:諸富 徹(京都大学大学院教授)
- 放送担当講師名:諸富 徹(京都大学大学院教授)


概要

- イギリスやフランスの絶対王政期には膨張する軍事費や官僚機構を賄うため国王が課税を強行し、それに対して市民側が反発したため国王はしぶしぶ議会を開かざるを得なくなった。これは市民革命の引き金となった。現在では市民の同意なしに課税をしない事(課税協賛権)が認められ、定期的な議会により予算が統制されることは民主主義の根幹となっている。

- 予算とは:1.歳入と歳出の計画、2.財政の民主主義のための情報的基盤、3.財政資源の配分に関する意思決定メカニズム、である。

- 予算論は1.社会的価値の選択の問題(第2回参照)、2.意思決定メカニズムの問題、3.財政規律の問題、を課題として扱う。

- ミクロ予算とは、ボトムアップに予算の必要な部署が要求を積み上げて予算を作成する方法である。ウィルダフスキーはアメリカの高度成長期の予算編成プロセスを分析し、増分主義という方法が使われていることを見出した。すなわち毎回ボトムアップで決めるのは労力が大きいため、前年度予算の配分をベースに今年度予算の増加分を一定割合で認め(シーリング)、さらに新しい予算配分の部分に対して利害集団が調整を行い予算配分を決定する。これはアメリカにおける財政民主主義の実践とみなされる。著書「予算編成の政治学」は増分主義に関する名著である。

- 図

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- 増分主義の問題点は予算額が減少したり歳出増加分を歳入が賄えないケースである。この場合はマイナスシーリングとなり現行の配分から一律に一定割合ずつ削減が求められる。その結果、予算硬直が発生し、世の中のニーズの変化に合わない配分が続いてしまうという問題がある。

- 低成長や高齢化などでこの問題は1980年ごろから顕在化しマクロ予算編成という手法が台頭した。すなわちトップダウンで総額をコントロールし、それに合わせて統治機構を改革する。これで予算ニーズの変化に即応し大胆な組み換えを可能にするが、予算の権限は中央集権的となり、民主主義的な手続きおよび議会による制御をどうするかという問題がある。

- 予算のコントロールのため、予算には以下の原則がある:
- - 公開性の原則
- - 完全性の原則
- - 単一性の原則
- - 限定性の原則 (会計年度独立)
- - 事前性の原則

- しかしながら日本の財政法では以下の例外がある。特に単年度予算は徐々に時代に合わなくなってきていることが指摘され、中期計画の必要性につながる。
- - 一般会計と特別会計 (<--> 単一性、財政法13条)
- - 公共事業などの複数年度執行 (<-> 会計年度独立、財政法14条2,3、15条 )

- 財政再建のニーズに合わせてマクロ予算編成論が注目されるようになった。日本では1997年の橋本政権の時に「財政構造改革法」が成立したが経済悪化とともに1年で挫折した。小泉政権2001-2006では経済財政諮問会議によるマクロ予算編成とプライマリーバランスの黒字化が目指されたが2008年ごろのリーマンショックにより頓挫した。日本の財政再建の度重なる挫折要因として単年度会計の問題がある。すなわち、
- - 補正予算が拘束されていない
- - 一般会計から特別会計への組み換え
- - 今年度予算から来年度予算への組み換え
- 従って短期間の不景気などにあたっても財政再建を継続できるよう、中期計画を策定することが重要となる。現在の日本では中期財政フレームは存在するが拘束力を持っていない。

- 予算改革・財政再建に成功した国の予算のパターンとしては以下が挙げられる。
- - 内閣主導のトップダウンで総額や省庁への配分を複数年にわたって固定
- - 省庁ごとに支出の上限を決める一方で資源配分は省庁に裁量
- - 予算編成の査定では制約の中で資源再配分を重視
- - 政策評価を活用して実施面の改善・効率化
- - 高齢化に対応した長期計画

- 河音先生(立命館大学教授):日本の首相官邸主導のトップダウン予算編成は、小泉内閣で本格化した。しかし2018年度もPB黒字化は先送りである。骨太の方針を受けた予算見積もりや将来予測とベースラインの提示が両方とも首相官邸と財務省によって行われるため恣意性が発生している。日本の増分主義はまだ残っており、議員の意見を反映する場が財務省から官邸に動いただけである。

- 河音先生(立命館大学教授):アメリカの予算編成は議会の役割が大きい点が日本と全く違う。ただ当初は議会はマクロな財政推計機能をもっていなかったため巨額の財政赤字が問題になった。ニクソン政権ごろから改革が進み現在は議会予算局がその役割を担っている。配分の柔軟性に関しては苦戦しており、成果とのリンクを確立するために、会計検査院を強化して、日本のように予算が正しく執行されたかを確認するだけでなく、政策の妥当性についての評価も行うようになっている。議会がその報告を無視してもいいし採用してもいい。議会は専任のスタッフを抱えており、議員も14人(上院議員)ー39人(下院議員)の政策秘書を公費で雇うことができる。日本の政策秘書は1人、公設秘書2人であり、地元で選挙活動も行うためスタッフ数で見た差は大きい。

感想

増分主義、名前は知らないけれど、部活動の予算(笑)とか、身の回りではわりとよく見るやり方かも・・。橋本政権ー小泉政権ではいろいろ制度変更があって印象に残っていませんでしたがマクロ予算編成への転換というのもあったわけですね。詳しくは説明されていませんが、河音先生のインタビューの中で日本のマクロ予算編成プロセスの図が出てきて「骨太の方針」が最初のステップに位置付けられておりました。道理で毎年聞くわけだ(汗)。何かのキャンペーンかキャッチフレーズだと思っていましたよ・・・。

河音先生の指摘は難しくてよくわからないのですが、マクロ予算編成による財政再建のためには、内閣主導のトップダウン型にするだけでは不十分で、アメリカのように議会や会計検査院の機能・スタッフの強化、特に予算の妥当性の評価や「この予算案なら将来の税収や経済成長がどうなる」というような推計の機能を強化すべき(チェックのためだけでなく促進のため)、ということでしょうか。アメリカの議会ってこんなに違うのかーというのは興味深かったです。

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