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現代音楽の傑作選、若年の感性が考える10の名盤

人間が人間らしく生きる上で必要なのは文化だ。
とりわけ音楽は自身の日常へ昇華していく。

この音楽を評価する上で、世代というのは極めて重要なファクターである。

例えば60年代のビートルズ旋風の時期、それをリアルタイムで体験した人間が評価するビートルズと、それ以後に生まれてきた後追い世代のリスナーが評価するビートルズはもはや別のバンドとすら言えるのではなかろうか。

私は21世紀生まれである。

評論界隈というと、おじ様方の懐古主義が蔓延り、もしくわ、現代のHiphop独裁の音楽シーンを過剰に意識したなんともむず痒いセレクトだったりと、若い世代の私なんかはついどこか違和感を覚えてしまう。

アーカイブ量にはそれなりに自信のある私なので、今回はジャンル、年代を問わず、今日までに生まれた名作の中から若い感覚に基づいて個人的ベスト10を作ってみたいと思う。

ベスト10といってもランキング形式ではない。
不朽の名作だと思う作品10枚をリストアップしただけである。その中でさらに野暮な順位を付けるとなると、これはかなり難しい。聴く時期や環境によって変動してしまうからである。

なので今回はあえて順位を付けず、個人的に名作だと思う作品を羅列するだけの自己紹介のような記事を書こうと思う。

【Black Messiah】 D’Angelo

ネオソウルの重鎮、火付け役であるD’Angeloが2014年に突如として発表した3rdアルバム。

「Voodoo」が名盤としてあらゆる媒体で神格化される中、私はあえてこちらの3rdを評価したい。

円熟味を増したD’Angeloがより現代的に研ぎ澄まされた感覚でキャリアをアップデートしたこの作品、すべてヴィンテージ機材でレコーディングに及んでいるのだが、圧倒的迫力感である。R&Bに分厚い肉厚感が実る瞬間には鳥肌させられる。

とりわけ、「Ain't That easy」「The Charade」「Another Life」が至極。


【The Dark Side of the Moon】            Pink Floyd

1973年、芸術音楽の代名詞が誕生。
プログレでは異例の商業的大成功をも達成。

この作品に関してはもはや今更、若造の私がとやかくコメントするまでもないだろう。

70年代前半にプログレムーブメントが起こったものの、硬派であまり一般的には目立たないプログレという枠の中でこうも現代音楽の顔になっているのには感嘆させられる。 またサウンドエンジニアリングの面においてもかなり精妙でクオリティが高い。

とりわけ、「Mony」から「Any Colour You Like」までの流れが至極。


【SOURCE】Nubya Garcia


2020年リリースの現代UKジャズ。

コンテンポラリージャズとえいども、オルタナが乱立しているだけのような現代音楽シーンではジャズもまた様々に入り組んだ区分けがなされているので、安易にカテゴライズできるものでもないが、いわゆるスピリチュアルジャズのサウンドに近い。

壮大で優美、なおかつ無二の爆発力がスピードを伴って備えられており、無限に駆け上がっていくような疾走感はある種現代ジャズの最高到達点を思わせる。

とりわけ、「Pace」から「The Message Continues」の流れ、「Stand with Each Other」が至極。


【To Pimp a Butterfly】
Kendrick Lamar


2015年リリース。いまやHiphopの王様と称されるKendrick Lamarの最高傑作。

Kendrickは常にマクロな視点で社会を捉えるリリシストだが、この作品はとくに商業的成功を収めた後の、Hiphopの王様としてのし上がった立場としての視点でリリックが展開されていく。

ロバート・グラスパー、Kamasi Washington、Thundercat、TERRACE MARTINなど、Kendrickと同世代の優秀なジャズミュージシャンらの活躍も熱く、ある種計画された傑作といえる布陣である。

とりわけ、というよりもこのアルバムは全体を通しての完成度が高すぎるため曲単位でピックアップするのは野暮である。サブスク時代の潮流に抗い、必ず通しで聴くべし。

【WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?】Billie Eilish

2019年リリース。グラミー賞の主要4部門を制覇した歴史的名盤。

なりよりも驚かされるのは当時Billyが弱冠17歳の少女であるということももちろんだが、兄との共同制作によるホームレコーディングのDIY作品であるということである。

ちなみにBillyは私と同い年である。
なのでこの作品は私が生きる時間の中でひとつ特別な指針になっている気がする。

生きる時代は自分では選べないからこそ、この作品がドンピシャ自分の世代としてリアルタイムでフォローできるのがたまらなく幸福である。

とりわけ、「Xanny」「Wish you were gay」「When the party's over」「bury a friend」が至極。


【A Brief Inquiry into Online Relationships】 The 1975

21世紀に入ってからのイギリスのモンスターバンドThe 1975が2018年にリリースした3rdアルバム。

私はよく「オルタナの乱立」という言葉を使うが、とくに2010年代以降の現代音楽は基本的にジャンル区分が曖昧で、それぞれのオルタナティブを各自に追求しているという極めて自由なマーケット構造になっている。

そんな時代を力強く象徴するかのような作品だ。

収録曲のひとつ「Sincerty Is Scary」のライブが現代テクノロジーを駆使した単発の芸術作品としても優れている。

とにかく「現代」なのである。
Appleの新商品PRを見ているときのような、現代なのに未来を感じるといったえもいわれぬ感覚。
これはきっとこのアルバムのサウンドを体験した人にしか伝わらないだろう。

とりわけ、「How to Draw/Petrichor」「Love it if We Made it」「I Like America & America Likes Me」が至極。

【MODERN TIMES】PUNPEE

2017年リリース。HiphopユニットPSGのメンバーPUNPEEによる初のソロアルバム。

PUNPEEの見事なサンプリングセンスとサウンドクリエイションによって聴覚のみで完全な映像が浮かび上がってきてしまう。

未来の歳をとったPUNPEE自身(通称ジジイP)が、このアルバムを作り上げた当時を自伝的に振り返るといったコンセプトで語り口調のskitが散りばめられているのが特徴。なんとも斬新でハイセンス。

とりわけ、「Happy Meal」「Renaissance」「Rain(Freestyle)」が至極。


【The Millennium Parade】 
Millennium Parade

2021年、King Gnuのギターボーカル常田大希をリーダーとしたユニットMillennium Paradeによるプロジェクトがついに本格始動した。

東京藝術大学にすら収まりきらなかった常田大希の独創性はやはりずば抜けている。

ミレパは映像との複合芸術、音だけで純粋に楽しむのもたまらないが、なんといっても真価を発揮するのは映像と合わせて鑑賞したときであるのは間違いない。

岡本太郎の代表的な芸術観、「芸術は爆発だ」
音楽においてそのような爆発を徹底追求した常田大希のより本質的なポップアートはまさに、爆発でしかない。

このアルバムもまた、曲単位でのフェイバリットをピックアップするのも野暮な程全体を通しての完成度が高いため、必ず通しで聴くべし。

【OKcomputer】Radiohead

1997年リリース。Radioheadの代表作のひとつ。

Radioheadは人によってフェイバリットが異なるのがまた面白いところだが私は断然オケコン派である。

とにかく「Let Down」、寝ても覚めても「Let Down」、もはや私はこの旋律に浸るためだけにこのアルバムを再生する。
ラストのボーカルが二股に分かれる展開は何度聴いても鳥肌がたつ。

【Workin' with the Miles Davis Quintet】
Miles Davis Quintet

1959年、ジャズ界の伝説マイルス・デイヴィスによるマラソンセッション。

その演奏のほとんどがワンテイクであるのは信じ難いほどである。

一曲目「It Never Entered My Mind」のレッド・ガーランドのピアノはもはやバッハの旋律、バロッククラシックのようであり、音の彫刻。


以上が私が個人的に不朽の名作と思っている作品だ。

やはり、21世紀に入ってからの作品が多いのは私が21世紀生まれだからであろうか。

万物は進化するのが世の常、音楽も時代と共にソフィストケイトされていくものなのかもしれない。

ともあれ栄枯盛衰これからも新たに様々な潮流が巻き起こることであろうが、その中で時間の概念を超越できる名作に目を見張っていきたいものである。

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