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コカ・コーラおいしい

先日、三鷹駅でだれもいない始発電車に乗り込むと、まるまると太ったおじさんが向かいのシートの端に座ってきた。

「カンナム・スタイル」でおなじみ韓国のアーティストPSYに20日間くらいジャガイモだけを大量に食べさせた感じ、、、さらに10歳くらい老けさせた感じの疲れきったおじさんだろうか。

そんなおじさんは

うーあつい!あつい!というしんどさを全身で表すべく、ゆさゆさと体をゆらしていた。

それもそのはず、その日は35度を超える猛暑で、ネルシャツを汗で濡らしたおじさんはズボンのポケットからハンカチを取り出すと、顔に埋まっていた丸メガネを外し、顔から流れ落ちる汗をいそいそと拭っていた。

そして一息ついたおじさんは、リュックを前に抱えてジッパーを開けると、中から赤と黒のペットボトルを取り出した。

あっ、コカ・コーラだ!!と私は思った。

おじさんはキオスクで買ったと思われる、そのコカ・コーラを即座にプッシュ!と開けると、一息ついてグビグビと飲み出した。

喉元を3回くらい過ぎただろうか。おじさんは口元からボトルを外すと、「コカ・コーラ」と描かれたその赤いセロファンを見ながら目をくるくるとさせた。右目と左目をずらしながらくるくるくるくる回転させたのだ。

その表情は、ああ、コカコーラおいしい!おいしすぎてビックリ!いや、なにこれ最高じゃん!!という表情でとても感動しているようだった。

わたしはその表情から目をそらすことができなかった。いつまでも目をくるくるさせてペットボトルを見つめ続けるおじさんから目が離せなかったのだ。

こんなにコカコーラのおいしさに驚いている人を見たことがなかった。。

かわいい。。というか愛おしい。

この瞬間、わたしのなかで彼の呼び名は「おじさん」から「おじさま」になった。

そして

この人をCMに使えばいい。そう思った。若さも、美しさも、朗らかさも、爽やかさもいらない。

ただこの人を使えばいいのだ。まちがいなく売れる。そう思った。


わたしはこのときほどコカ・コーラを飲みたくなったことはない。その日の帰りには早速、コーラを買ってギンギンに冷やした。

そしてだれもいない部屋で、赤と黒のボトルと対峙した。

あのおじさまを思い出した。なりたい。ああなりたい。わたしはキャップを外すとボトルを口元に持っていき、グビグビと一気に飲み込んだ。

全身に稲妻が走る。ふだんコーラなんて飲まないのに、この日はその味わいに身体が震えた。

わかる。猛暑には響く。わたしの目もあのおじさまほどではないがくるくると回った。グビグビ、クルクル。グビグビ、クルクル。

わたしはおじさまがCMの中で目をぐるぐるさせてコカ・コーラに感動しているところを想像した。とても健やかな気分だ。そして、そんな平和が訪れることを一心に祈った。

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