最低賃金引き上げに関する記事がだいたい的外れな件② 給食会社が倒産したことにも触れます

さて、前回の記事からの続きです。前回は、最低賃金引き上げは必要なことであること。賃金の問題は、国内だけではなく、海外の賃金水準や物価水準も加味して考える必要があることを書きました。

今回は、最低賃金が上がることで耐える会社、お店がある一方、潰れる会社やお店もあることについてです。

潰れる会社がいよいよ出てきた

ちょうどタイムリーな話ですが、広島に本社を置く給食会社が倒産しました。この会社は28都道府県の自衛隊や学校、役所などの食堂運営や給食事業を担ってきたということです。
その会社が、物価高などを理由に事業運営が立ち行かなくなり、突然の倒産になって、いま全国的にトラブルを引き起こしています。

まず、こういうことが起きるたびに、「賃金を急激に上げすぎたからだ」という論者がいますが、これは経済を全く知らない素人の意見です。
今回経営者も言及していますが、大きな原因は物価高でしょう。給食事業の場合、食材の値段上昇もそうですし、調理や食材保管のための電気代やガス代、運送のための運輸代もガソリンの値上げで上がっています。数年前から見ると1.5倍~2倍近く上がっていますし、最低賃金も上がっていますから、単純に経費は1.5倍くらいになっていると見ていいでしょう。

しかし、一食当たりの単価は上げられなかったようですし、むしろ他の業者が驚くレベルの価格で入札していたみたいなので、むしろ単価は下がっていたかもしれません。
はっきり言って、倒産は時間の問題だったと思います。

倒産を避ける方法はなかったのか?

方法は二つです。
一つは値上げを飲んでもらうということです。これは至極まっとうな方法です。しかし、今回の場合、入札方式の相手が多いようです。この場合は、1対1の交渉はできませんから、そもそも手を出さないか、無理して利益度外視で売り上げを取りに行くかになりますし、この会社はとりあえず売り上げを取りに行ったのでしょう。その理由は推察できますが、後述します。

もう一つは、別の経費を下げることです。しかし、下げられる経費はほとんどありません。そうすると人件費を下げるしかありません。
給食事業や食堂事業はなかなか自動化しにくい業態の一つです。
飲食チェーンのように、決まったものだけを作るわけにはなかなか行かず、日替わりメニューなどを入れることが条件になっていることも多いためです。そのため、作業工程や扱う食材がころころ変わるため、どうしても人間の調理員に頼らざるを得ません。
そして、この会社は既に報道されていますが、2016年ごろに、ベトナム人実習生を3か月で3万円しか賃金を払わなかったという話が浮かび上がってます。事実かどうかは報道を見る限り断定はしていませんが、事実だとすれば、既に違法な人件費削減にまで手を付けてやり繰りしていたということになります。

なぜこの会社は無理をしたのか?

日本にはゾンビ企業と言われる、本来なら潰れておかしくない会社が多数あると言われています。この会社もその一つだったということです。

経営的な話をすると、キャッシュフローが一つ重要な要素になってきます。
言葉の通り、お金の流れですね。
企業や商店は、物を買うときに普通は売掛、買掛という方法を取ります。これは、一回一回、そのときにお金を払うのではなく、買ったもの、売ったものをまとめて数か月後に払います。
なので、極端な話、買うときにお金がなくても、支払うときにお金があれば、問題はないのです。

そのため、利益が出ない案件を獲得しても、毎月売り上げが増えてくれれば、数か月前の支払いを払うことができます。
当月に発生した経費も、実際に払うことになる数か月後に売り上げが増えて、入ってくるキャッシュが多くなっていれば困ることはありません。
本質的には違いますが、アマゾンは毎年あえて赤字決算になるように設備や人的投資を行い、売り上げを拡大し続けるという手法を採用していました。
なので、これ自体は単純に間違っているとは言えません。
(とは言っても、社員の給与などは毎月払うので、そう単純な話ではないのですが、ここではわかりやすくするため極端な説明にしています)

ここからは推察ですが、おそらくこの会社もなかなか利益の出ない業態の中、案件を獲得するために赤字ぎりぎり、もしくは赤字確定の金額で入札し、それをどうにかするため売り上げを拡大したのでしょう。
そして、売り上げを拡大するために、確実に獲得できる破格の金額で入札し、結果利益が出ないから、次の案件獲得を目指すという、綱渡りの連鎖を続けていたのだと思われます。

これからどうなるのか?

まずは官公庁や学校、自衛隊などは、他の業者を探すことになりますが、倒産するくらいの単価ですから、引き受け手はいないでしょう。
実際に、なかなか難航しているようで、倒産した会社の元従業員がボランティアで調理を続けていたり、地元の弁当屋さんに一時的に頼んだりしているようです。ただ、そのお弁当屋さんも利益度外視でしているのではという報道も出ています。

長い目で見ると、金額を上げるしかないでしょうが、そうすると自衛隊や役所の予算が増えます。つまりは使う税金が増えます。
学校給食の場合も税金で補填するか、親御さんからの給食費を値上げするかです。
もしくは、食堂や給食を廃止して、自分たちでお昼を持ってきてというふうにするかです。

どのみち、税金が増えるか、自分たちの負担が増えるかで、国民・個人の負担が増えることになります。

なぜ、こうなったのか?

さきほどさきほど言及したように、売り上げが増えていればどうにかなります。そして、日本は高齢化とはいえ、2008年までは人口は増え続けていました。つまり日本国内の売り上げは増えていたともいえます。
そこから緩やかに減少が始まり、その減少規模がここ数年で大きくなり始めました。つまり減少の速度が上がってきたわけですね。
それでも、最低賃金は上がらず、物価も上がらない間はどうにかなっていました。
しかし、海外の経済成長、コロナ禍、ウクライナ戦争と世界情勢の変化から物価高が始まり、それに伴い賃金アップをせざるを得なくなったため、ゾンビ企業にとってのボーナス期間が終わってしまいました。

そのため、自転車操業の企業が立ち行かなくなってきたというわけですね。

これからどうすればいいのか?

国や自治体レベルで言えば、まずは予算を上げること。そして、削れる予算を削ることになります。
ここからは未知の体験です。たとえば、コンパクトシティ構想を推進して、郊外の人には中心部に転居してもらい、水道や電気の施設を減らす、ごみ収集の範囲を狭める、公立病院を中心部に集約して経費を減らす、市民センターなどの公民館のようなものも中心部に集約して数を減らすといった具合です。
はっきり言って議員の給与を減らすとか、そういう小さな節約ではもはや打開できません。
人口15万人くらいの市でも、年間予算は合計で1000億円を超えます。1%を削っても10億円になります。この規模の予算を削るイノベーションをこれから国や自治体は起こすことを求められます。

そのためには、既存の役人では対応しきれないのも事実です。外部のコンサルタントや民間企業経験者にも入ってきてもらい、それぞれの知識、経験を生かして対応する必要性が生まれてくるでしょう。経費を削ることができれば、彼らスペシャリストへの報酬は安いものだと思います。

個人で言えば、経済活動の基本に立ち返り、給与の高いところへ転職する、就職するに尽きると思います。
元々経済学上では、人は条件のいいところへ流れていくものであり、また豊かな生活をするためにスキルを身に着けることもまた前提になっています。

しかし、長らく日本では愛社精神という概念や、転職のハードルが高いなどの現実から、人の移動が制限されてきました。
また、終身雇用の弊害で、社会の変化や技術革新が起きても、自発的にスキルの学習を行わない人が多くなってしまいました。

今でも高給取りの方々と話をすると、今の仕事には直接関係のないスキル学習を行っている人や、人脈づくりをしている人が多いです。
それこそ、最新のプログラミング言語を触ってみたり、英語や別の第二外国語を勉強している人を知っています。

個人となると、それぞれいろいろな事情、背景が現れますし、一概には言えませんが、資本主義社会で生きる以上、これからは少なくとも今よりは各個人の努力や工夫が必要になると思います。
そして、それはすべての人ができるわけではありません。そのためにスペシャリストがいるのだと思っています。

転職やスキルアップ、就職活動などのご相談はいつでも受け付けています。

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こちらのメールアドレスで、ご相談依頼を受け付けています。初回無料なので、お気軽にご相談ください。

それでは今回はここまでです。ありがとうございました。

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