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夢百夜(15) 京都、長屋で鹿にあう

(けさみた夢シリーズ。2200字 2分でよめます)

京都に家族と親戚一同で泊まりに来ている。

今晩の旅館は長屋をリノベーションしたところ。

といっても、内装はほとんど手をつけていないよう。

旅館、というよりは田舎に帰省してきた雰囲気がある。


ここは丸々一棟、貸してくれるところ。

1階から2階へと、室内を歩いてみる。

外は夕暮れ、2階のベランダからは長屋の屋根が向こうまでみえる。

電線には、なんと鹿が一頭、とまってる。

電線のうえで居眠りしているみたいだ。

からだは、けっこう大きい。

奈良からちかいからな、などどおもってたけど。

大きさはその比じゃない。

縦横ともに2、3倍は大きい。

でも、ぐっすり寝てる。

赤ん坊みたいに。


ベランダのちかくでおじさんが旅館の浴衣に着替えてごろんと寝ている。

反対側では親戚の男の子と女の子がふざけあっている。

ベランダのそとは夕暮れ。

長屋の屋根と空が紅色に染まっている。

鹿も染まっている。

ぼくはその場に座りこんでそんな風景にみとれている。


ふと、ぼくのひざにねこのノエルがやってくる。

ノエルはわが家の同居人。

ぼくのひざのうえでまるくなる。

ふだんはこんなことしないのに。

ベランダの窓は開いている。

ちょっとあぶないかな、と一瞬あたまによぎる。

でも、ぼくのひざのうえにノエルがくることなんてめったにない。

まあいいか、って。ぼくは思っている。


すると、突然。

ノエルはにゃああと、長屋のむこうのだれかにむかって威嚇するような声をあげる。

そして、つぎの瞬間、ぼくのひざを蹴るように飛びだし、長屋の屋根めがけて飛びだす。

待って…とぼくが手をのばす。その頃にはノエルはもう長屋の屋根のむこうに消えてしまっている。。


どうしよう。

どうしようって自分に言い聞かせながら、木造の階段からしたに向かう。


ぽつん。ぽつん。

顔や首に水滴が落ちてくる。

天井をみあげる。

暗くてよくみえないが、雨漏りをしているらしい。

天井の一部が黒くなっている。

階段の壁がカーテンになっているので、それをめくって天井裏をのぞこうとする。

でも、カーテンのなかはほうきなどの清掃道具や備品がぎっしり置かれていて、天井をのぞく隙間がない。

天井の水漏れの原因をみることは諦めて、したにいく。


廊下は縁側となっていて、窓は開放されていて、そとの庭がみえる。

突然、どすん。

と、庭になにか黒い物体が落ちる。

それは2.5mいや3mちかくあるだろうか。

かなり体格のいい大男にもみえる。


いや、鹿だ。

さきほど電線のうえで休んでいた、あの鹿がおりてきた。

目のまえの鹿。

その背中はたくましい筋肉でおおわれていた。

そしてその2本足で立っている。

SNSでみた筋肉質のカンガルーのような姿だ。

こちらからみて背中をみせている鹿のたくましいツノが動いた。

ふりむいて顔がこちらにむく。

目があった。

その瞬間ぼくは廊下を走る。

「鹿がでたぞ!!!」

ぼくは大声でその場にいた家族や親戚に叫ぶ。

すると建物の壁をへだててぼくのちかくでドスン!という大きな音がする。

鹿はこの壁の向こうだ。

ちかくにいた家族たちはもう、だれも口をひらかない。

長屋のなかも、そとも、物音ひとつしなくなる。

ぼくらは目で合図しながら、なるべく音をたてずに玄関にむかう。


ぼくの足もとに親戚の子どもたちがおびえた顔をしている。

女の子がぼくの手をぎゅっとにぎってくる。

男の子もぼくの足もとにしがみつく。

一歩、また一歩とぼくたちは玄関にむかう。

壁一枚むこうから鹿が鼻をぶるるんと鳴らす音が聞こえる。

鹿はあきらかに、僕たちにあわせて動いている。

このままだと玄関を出ても、鹿を目の当たりにするだけ。


どうしよう。

でも、とりあえず玄関にむかう。

玄関はすりガラスになっていて、そとからの明かりがぼんやりはいっている。

そして、鹿のものとおもわれる影もみえる。

光源は斜めうえからはいっているため、鹿の影がいやに大きい。


パン。

パンパン。

閃光とともに耳をつきさす音。

目のまえが真っ白になり、一瞬なにも聞こえなくなる。

そしてかすかに何かがどさりとたおれる音。

ぼくたちは訳もわからずその場でかたまってる。


「・・・か」

「・・・うか」

「だいじょうぶか」

ようやく声らしき声が聞きとれるようになってぼくたちは玄関にでる。

そこにはキャップをかぶり、ポケットのいっぱいついたベージュのベストを着て猟銃を肩にかけた男性。

そしてその向こうには黒いおおきなかたまり。

さきほどの鹿にちがいない。

この男性が肩にかけた猟銃でしとめたのだろう。

ぼくたちはたすかった。

男性の笑顔と足もとのどす黒いなにか。

そして火薬のにおい。

そのあとのことはよく覚えてない。



その場で鹿はさばかれて、庭にはバーベキューセットが用意されていた。

そしてさきほどの火薬のにおいやどす黒いなにかを消しさるように、肉の焼けるいいにおいが立ち込めている。

パチ…と弾けるバーベキューの炭火が、焼ける肉とぼくらの顔を照らす。

顔がほてる。


炭火で照らされたぼくたち家族と親戚はみな、楽しそうな顔をしている。

手には皿とはし。

皿のうえには焼けたカボチャと玉ねぎとお肉。

もともと用意されていたバーベキューパーティーみたいだ。

みんな楽しそうに話しながら焼けた野菜を肉を口に運んでる。

キャップをかぶったさきほどの男性も黙々と肉を食べている。

ここにきてよかった。

そう思いながらぼくも野菜をほおばる。

足もとがちょっとべとべとしている。




きょうの作品 『ザ・レポート』

『スターウォーズ』出演で有名なアダムドライバー主演。

9.11アメリカ同時多発テロ以降に、CIAが容疑者に行った拘留、尋問に関するプログラム「EIT」。そのあまりに非人道的な拷問について調査を行う、というあらすじ。

物語自体、派手な見せ場はない。

終始、緊張感がただよう。

み終えたあと、自国の「黒歴史」についても映像化し表現できるって、まだ大丈夫だなって思える。

じぶんの弱さも世界にさらけ出せる強さをもつ国アメリカ。

日本はどうだろう。

『ザ・レポート』はプライム会員なら無料でみれます。






うちの子ノエルにちゅ〜るをあげます。