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綿毛、ワタゲ、わたげ。

 斜め前を進むベビーカーから赤ん坊の腕が覗いている。ぶんぶん振り回しているのは、きっと綿毛に触ろうとしているのだ。ポプラの綿毛がふわふわとそこらじゅうに浮かんでいるから。

 小さな腕をぐるぐる振り回している所を見ると、まだ触れることが叶っていないようなのだけれど、一方で綿毛を煩わしいものとしか思っていない私の顔や腕に、綿毛はどんどんぶつかってくる。綿毛は多分、私より赤ん坊の方が怖いんだろう。

 建物に入ると、やっと大きく息を吸うことが出来た。一息つきながら通路を歩いていくと、大きな窓の横にはこんな張り紙がされている。

「ポプラの綿毛が入ってくるので開けないでください」

 誰がそうしたのか、その窓は全開だった。なんだか、近くに子供がいるような気がした。その子は、こんなことを言うのだ。

「綿毛とワタゲとわたげなら、きっと、わたげが一番軽くてふわふわ」

活動の源になります……