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【ジャンル別】本格ミステリの勧め④【バカミス編】

前回【特殊設定編】はこちら↓↓


“バカミス”

このワードは好事家の間では当たり前のように使われているものだが、ミステリに詳しくない方々の間ではどうなのだろうか。

簡単に説明してしまえば、あまりに荒唐無稽で馬鹿馬鹿しいトリックを使った本格ミステリのこと。

ただ、どこまでが”普通”で、どのレベルからが”バカ”なのか。
その線引きは人によって違ってくると思う。

しっかりと伏線が張ってあり、読者を納得させることが出来るのであれば、それはバカミスではない。
という論調もあるが、僕はそれを是としない。

そもそも伏線が張られておらず、納得すら出来ないのであれば、それは本格ミステリの要件を満たしてない。
ただのバカであって、ミステリではない。

作者に無理矢理にでも納得させられつつ「いやwwwwんなアホなwww」と笑ってしまうものこそバカミスと呼ぶべきものだと僕は思う。

今回、バカミスを紹介するにあたって、長編という縛りを設けた。

というのも、短編であれば割とバカミスは溢れているから。
長編を支える程ではないけど、思いついちまった面白いネタ。
それを短編で書いてみよう。
そんな心意気で書かれたおバカな短編はしばしば登場する。

けど、長編でバカをやってやろうという気骨のある作品はなかなかに無い。

以下で紹介するのは、本格ミステリの要件を満たしつつ、正真正銘の”バカミス”を長編で成立させた作品たちだ。

倉阪鬼一郎『三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人』

バカミスといえばこの人を先ず挙げなければなるまい。
最近はご無沙汰だが、以前は一年に一冊はバカミス長編を出すことを自らにノルマとして課していた頭のぶっ飛んだ御仁である。
特徴は、あまりにも手の込みすぎた、伏線もとい仕掛け。
少々ネタバレになってしまうかもしれないが、ある種の”仕掛け本”なのだ。
仕掛けが伏線の役割も果たしており、それさえ看破できれば真相へは一足飛びに到達できる。
随所に真相を補強する伏線も張られているので、仕掛けに気付けなくても真相を看破することはできる。
実際、僕は先に真相に見当がついてしまってから、仕掛けに気付いたクチだ。
作者の労力を慮って思わず合掌しそうになった。
まさに、バカミスの代名詞。
是非ご一読を。

殊能将之『黒い仏』

49歳という若さでこの世を去った、ミステリ界の異端児。
その生涯で7つの小説を産み落としたが、そのどれもが強烈だった。
恐らく、一般層への知名度はデビュー作『ハサミ男』が断トツなのだろう。
しかし、本格ミステリ界隈をざわつかせたのは本作だった。
本格ミステリの”お約束”を踏み台にして、あまりにも身も蓋もない事件の構図を書いている。
人によっては「こんなものけしからんっ!」とぶん投げるだろうが、ミステリを愛していないと思い付かない構図でもある。
作者のミステリへの並々ならぬ愛を、ここから感じた読者はこの『黒い仏』以降の作品群も気に入ってもらえる事と思う。

早坂吝『双蛇密室』

衝撃のトリックが炸裂したデビュー作『○○○○○○○○殺人事件』に続く、上木らいちシリーズ4作目。
エロいロジック、略してエロジックが特徴の本シリーズだけど、とうとうエロいを通り越してえげつないになってしまった。
いや、理論は理解できるよ?
できるけどさぁ…
マジで悪魔の発想だと思う。
近年の新本格ミステリシーンでは、屈指の馬鹿馬鹿しい一撃。


小島正樹『扼殺のロンド』

島田荘司御大仕込みの奇想を勿体無いくらいに詰め込む事から、やりすぎコージーの異名を持つ著者の2作目。
鍵のかかった工場内で、これまた鍵のかかった車内の中に2つの死体。
片方は腹が裂け腸が抜き取られている。
もう片方は何故か高山病を発症していた。
この事件の謎だけでお腹いっぱいになるレベル。
こんなん合理的な解決が出来るんか?
出来るんだなぁ、やりすぎコージーならね。
事件の謎が奇天烈なら、真相だって奇想天外。
バカトリックの連打で、読者は驚く暇すら与えられない。
是非ともこのジェットコースターバカミスを愉しんで頂きたい。


門前典之『屍の命題』

奇想と言えば忘れてはならないのがこの人。
人を人と思わない極悪非道のトリックが売りの門前典之である。
今作も人が玩具にされる。
作者の手の中で捏ねくり回され、時には伏線に、時にはトリックに、時にはロジックに。
本作の特徴は、所謂”そして誰もいなくなった型”ミステリなのだが、それ以外の部分のインパクトが強すぎて、そこに言及する人はあまりいない。
まさに奇想。
数年前は佳作作家だったが、近年は何故か精力的に書いているので、目に触れる機会があったら手にとってみて欲しい。
最近の作品は割と読みやすいので。

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