エッセイ : 我が癖


 2017年になった。僕という男は元旦から今に至るまで、小説や曲を作るでもなくお雑煮をたらふく食い、眠たくなれば昼過ぎまで爆睡し、起きて今度はおしるこを食べという生産性皆無の生活をしていた。自称クリエイターとしてあるまじき行為だが、あえて言おう。最高に幸せである。
 
 普段も油断するとすぐにだらけてしまうのだが、お正月休みともあれば僕のグータラ脳は活性化し、親もあきれるほどのダメ人間になってしまう。
 そろそろ何かを作っていないと未来の自分に言い訳がつかないので、曲でも作ろうかとギターを弾いているとテーブルに置いていたスマホが振動した。
 

!新着メールが一件届いています


 ほとんどの連絡手段がLINEとなった現代で、メールが届いた。おかしい。僕の友達にメールで連絡してくるやつなんていないし、親や祖父母もLINEを使っているからその可能性もない。データ通信料超過の通知だって自宅のwifiを使っているからまだまだ先のはずだ。
 皆さんお分かりだろうか。友人でも親でも携帯会社でもない。ここまで条件が絞られると答えはもう出ているも同然だ。

メールは「みなみ」という見知らぬ人物からのものだった。
 件名には、「運命って信じますか?」と書かれている。
 
顔も名前も知らない人にいきなりこんなことを言うなんて、ロマンチックな人だなあ。とはならない。断じて。
ご察しの通り、迷惑メールである。
 随分と古風だ。初めはそう思っていたのに、僕の想像力は突然動き出した。モラル等といった常識めいた思考の壁をぶち破って、僕の意識が現実から遠ざかっていく。
 
 運命。もしかしたら送り主は迷惑メール業者ではなく、僕のことが好きでようやく連絡先を見つけてメールをくれたのかもしれない。もしかしたら僕の前世で送り主と恋人同士でetc...etc...
 たくさんの「もしかして」が頭を埋め尽くして、僕はどんどんと自分の作り上げていく世界に夢中になってしまった。ボーッとして気付いたら五分くらい経っていたことは恥ずかしいから誰にも言わないでください。
 
 昔から現実逃避が大好きだった。
 
 もっと細やかに言うと、アニメや漫画のような非日常を求めて、妄想という仮想的なパラレルワールドの自分に意識を集中させることを物心ついたときからやっていたのだ。
 
 小学校の六年間は仮面ライダーに夢中だったので、社会の授業中は、いつも怪人を退治してその物語のヒロインを救っていた。我ながら熱い子どもである。
 
 中学から現在にかけて、年齢の上昇と共に特撮物のようなファンタジー要素がなくなっていったが、その分過激さが増した。これはそんな男性も経験していると思う。
 
 だが、僕の妄想劇は過激さと共に恋愛における運命のようなシチュエーションも多用されるようになっていったのだ。
 
 新海誠監督作品で言うところの「君の名は」のようなダイナミックなものから、「秒速五センチメートル」のように密度が高くせつないものまで。
 僕は様々なヒロイン達と時には冒険をして、時にはドラマチックな展開でどぎまぎしたりを繰り返していた。
 
 アブナイ人である。でも妄想だけならいいじゃないすか。
 
 最近になってもこの癖は治らない。後ろめたさを感じて治さなきゃと思う時期もあったが、これはこれで創作に活かされているのだからいいのではと最近思う。
 
 どんなことでも夢中になってやっていれば役に立たないことはないのだ。一見痛々しい空想の世界にトリップしている人も、それを文字や音楽に昇華することが出来れば、作家の仲間入りである。
 
 バカにされるのを怖がっていては何も始まらない。人の目を気にして己という面白さを隠してしまうのはもったいないことだ。だから、僕は文章に書き出す。もっともっと自分の普通を理解してもらうために。
 
 今まさに自分の癖(ほぼ性癖)を晒している人が格好のいいように書きなぐった文章であることをどうか忘れないでほしい。
 
 
 運命って信じますか。
 例えアホらしいと蔑まれても、こう答えよう。
 信じたい。
 
 とりあえず、バカな男の妄想劇が何かを産み出す限り、僕はこの癖を愛してみようと思った。

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