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0円不動産時代へ(上) ー 市場とのミスマッチとコミュニティ崩壊の危機

はじめに ー 人口3万人の地方都市の「まちなか」

私が事務所を構える富山県滑川市は人口約3万人強の地方都市である。全国的に知られた施設や観光地は無い。隣接する富山市のベットタウンとして、なんとか人口を維持してきたが、近年、減少へと転じた。しかし、その内情をみてみると、郊外の宅地開発は堅調であり、まちなかの衰退は加速度的に進行している。「都心回帰」や「コンパクトシティ化」が脚光を浴びているが、我が街にその兆しはない。このエッセイでは、私たちが住んでいる街のような人口5万人未満の地方小都市の中心市街地=「まちなか」として、そのまちづくりの課題についてかんがえてみたい。

地方小都市版ドーナツ化現象とコミュニティ崩壊の危機

前述のとおり、まちなかの空き家が増加する大きな要素は「若手世代が郊外に住宅を建てること」である。まちなかで育った若者は自らの住処を利便性の高い郊外に求める傾向にある。人気が高いのは小学校の周辺やロードサイドショップが集積する幹線道路沿いのエリアで、不動産業者によって開発された新規分譲地では、造成前から完売するケースもあるようだ。私たちがお手伝いさせていただいている新築住宅のうち約半数はこういう分譲地に立地している。
そういう私自身は閑静な郊外型の住宅地に生まれ育った。しかし、自邸の計画を始めた時、郊外型の暮らしはイメージが湧かなかった。そんなとき、街中にあるとても魅力的な土蔵に出会った。持ち主との売買交渉が成立し、この土蔵をリノベーションして住処とするプロジェクトがスタートした。「若者」の流れに逆行し、郊外からまちなかに移住した。そこでわかったことは、まちなかの空き家の増加と高齢化問題は予想以上に深刻であるということだ。
私たちが転入した町内会は500名ほどが居住している。なかでも我が家が所属する班は5世帯から構成されており、うち3世帯が高齢一人暮らし、1世帯が高齢夫妻、残りがマイファミリー、そのほか3-4軒は空き家である。そう遠くない未来、班長を私と妻で交代交代に努める時代が来るかもしれない。町内会の児童クラブはかろうじて存続しているようだが、児童の数は一桁。人口衰退により、コミュニティも崩壊の危機にさらされている。

「都市のスポンジ化」

まちなかエリアには車も通れない小路がはりめぐらされている 建築不可能な敷地も多い

郊外居住の進行に並行して、まちなかでは「都市のスポンジ化」が着実に進行している。その様子はgoogle earthの航空写真からも一目瞭然で、とりわけ、車が通れないような「小路沿い」にある空地(=スポンジ)が目立つ。車両の通行ができないことから防災、防犯、インフラ整備の課題があり、また中には建築基準法の接道要件を満たすことができない場所もある。これらの理由から活用が放棄されているのである。
このように点在する空き地を「目に見えるスポンジ化」とするならば、「目に見えないスポンジ化」としての「空き家」も大きな問題である。子世帯が都市部や郊外に移住し、後継者のいない家屋が発生する。それらの建物が解体や売却されるなら健全ではあるが、相続・登記などの問題があることが多く、また更地は固定資産税も高い。このように「空き家」発生のメカニズムは社会的要因にある。街を歩いていても空き家かどうかは一見したところ判別できないが、その数は加速度的に増加している。たとえば、滑川では、空き家率(住宅にたいする空き家の割合)が平成30年には約12.6%に達し、20年間で約1.5倍に増加した。その半数がまちなかエリアに存在している。そして、膨大な数の空き家予備軍(高齢1人暮らしの家屋)が潜在していることが容易に想像される。

住宅市場とミスマッチする「まちなか」

ドーナツ化、スポンジ化が進行する原因は、住宅市場の中心にある子育て世代の要望に、まちなかエリアがマッチしていないことがあると考えられる。たとえば、次の要因が上げられないだろうか。(※他の要因があればご教示願いたい)

  • 道幅が狭い(ほとんどの道路が6m以下) 。都市計画は停滞。緊急車両が通れないところも多く安全上の課題が多い。

  • 区画が小さい。区画整理も進まず、駐車場が確保できない。

  • 利便性が悪い(商業の中心は郊外店に推移)

  • 相続や登記上等の課題がある

0円不動産

まちの中に無数にある小路。建築基準法の接道要件を満たすことができず、利活用の目処は立たない。

前述の住宅市場のミスマッチの結果、まちなかエリアの中古物件は価格破壊の渦中にある。隣県の某スキーリゾートにて、ほぼ「0円」でリゾートマンションが売買されているという話を聞いたことがある。その背景は全く異なるが、このままではゴーストタウンと化してしまう可能性も十分にある。年々増加数する空き家に対し、買い手はほとんどいない。「無料でもいいから引き取ってくれ」という所有者も現れるくらいだ。そして「0円不動産」の時代が現実になりつつある。
私たちが設計のお手伝いさせていただいた案件でも同様の事例があった。相続を受けた所有者が都市部に居住。管理が手間であり、0円でもいいから譲り受けてくれる人を探していた。私たちのクライアント様がその話をききつけ、マッチングは成功。しかし、「0円譲渡」では税務上の問題もあるため、不動産屋さんに仲介に入ってもらい、市場性をふまえた廉価取引にて「購入」した。

※続きは、「0円不動産時代へ(下) ー 地価の下落。まちづくりは何をすべきか?」へ







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