見出し画像

脳内闘技場最愛バトルロイヤル

思い返せば恋多き人生であった。たくさんの人を愛し、その想いは或いは報われ、或いは報われぬまま泡沫となって消えた。死の間際になって思う。私が最も愛した女は誰だったろうか?と。病床で眠る私の脳内の闘技場で、生涯最愛の称号を掛けたバトルロイヤルが始まった。

80余年の人生。私が愛した女たちが、それぞれ武器を持って闘技場へとやってくる。ルールは簡単。最後に生き残っていた者が我が人生最愛の人である。それだけだ。真っ白な石畳で造られた闘技場は底が見えぬ深い堀で囲まれていて、東西南北にそれぞれ橋に繋がったゲートがある。傷付き倒れるか、堀に落とされるかすれば脱落だ。闘技場を囲むすり鉢状の客席には、私の人生のそこここにいた友人や家族たちが集い、私の最愛の行く末を見守っている。学生時代の友人、かつてのバイト先や職場の同僚、劇団時代の仲間たち、皆が固唾を飲んで、私の愛した女たちの入場を今か今かと待ち構えている。会場のボルテージはもう沸点に達している。ゲートが開き、いよいよ選手が戦場に足を踏み入れる。

巨大な『だんびら』を担いで西ゲートから入場してきたのは、学生時代の恋人だったユキエだ。長く伸びた髪の毛を後ろでキュッとひとつに結んで、切れ長な目は闘志で高揚してつり上がっている。北ゲートからはバイト先の先輩マチさん、得物は片鎌槍だ。東ゲートの先陣を切ったのは、私の愛した女性たちの中でも最高のおっぱいを誇る、劇団の後輩のミッチー。胸に携えた双丘の他にモーニングスターを引っ提げている。南ゲートからはマッチングアプリにハマっていた頃に会った女たちがやってきた。数回の逢瀬で、或いはワンナイトで終わってしまった者も多い。しかしそれでも私は彼女たちを愛していた。両手にハンドアクスを持ったフミカ、凛とした表情でレイピアを提げているのはトキコ、トンファーを振り回しながら軽快に入場してきたのはTommyちゃんだ。彼女とは3回会って3回ホテルに行ったけれど、結局本当の名前は知らないままだった。それでも私が確かに愛した人だ。ショートソードにバックラーのマミ。三節棍のアヤ。ハルバートのクルミ。鎖鎌のヤマモトさん、クロスボウのミズキちゃん……どうやらようやく選手が出揃って、後は試合開始の鐘を待つばかりとなった。

闘技場に集まった美しい戦士たちを眺める。私はこれだけ多くの人を愛してきたのだ。私はそれを誇らしく思った。関係していた時期、時間、密度、それぞれバラバラな女性たちだが、皆それぞれ魅力的な人ばかりだ。誰が勝ち残ってもいいと私は思った。しかし今日、この場で、私の生涯で最も愛した女性が決まるのだ。私は貴賓席の豪奢な椅子から立ち上がると、高らかに開戦を宣言し、大きく振りかぶって銅鑼を打った。ワッと大きく、戦士たちの鬨の声が上がった。

よろしければサポートいただけると、とてもとても励みになります。よろしくお願いします。