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プロの仕事

俺の仕事はいわゆる『プロ市民』だ。建設現場での反対運動、政治デモ、抗議活動、そういう現場に市民団体の一員として参加することで金をもらって生活している。

身体を壊して以前いたブラックな職場を辞めて有給を消化して休業手当をもらっていた時に、遠い知人から紹介されたのがきっかけだった。最初に行った現場は都内にある公園の再開発への反対運動。当時、公園にはたくさんのホームレスがいた。再開発が始まると、工事のために公園からホームレスを追い出すことになる。ホームレスたちの生活を保護する市民団体による再開発反対運動……という名目の抗議活動だった。公園の入り口を封鎖する一番最初の工事に集まり、抗議の声を上げるのがその日の仕事だった。早朝6時に集まって、8時から始まる工事を妨害する。とは言え何か手を出すと犯罪になってしまう。手は出さず、ただ立ち塞がったり、大きな声を出したりするだけだ。その日は11時ぐらいまで働いて、そのままとっぱらいで8000円とお茶をもらって帰った。どれくらいが本物の市民でどれくらいが我々のようなプロだったかは分からないが、その日は30人ぐらい集まっていたと思う。そこからリーダーの人とも仲良くなって、ちょいちょいと声を掛けてもらえるようになったのだ。

だいたい拘束時間は半日程度。日当は6000円から1万円ぐらい。ごく稀に1万5000円ぐらいもらえる現場もあった。それとは別に、例えば監督から手を上げられるだとか、工事関係の車輌に接触するだとか、テレビの取材が来ていて決定的瞬間を撮られるだとか、反対運動に役に立ちそうな材料が取れると特別に手当が出ることもあった。埼玉県の某駅前のタワーマンションの現場で監督に肩を突き飛ばされたのがテレビカメラで抜かれた時は、よくやったと言われて15万円もらった。その時はさすがに驚いたものだ。なかなか精神的にも辛い仕事で長く続く人も少なかったが、僕にはたまたま合っていたのだろう。日本全国あちこち飛び回りながら、今も気楽に働いている。

気楽に働いてはいるが、汚い仕事だということは自覚している。正義のため、環境保護のため、弱いもののため……そんな大義名分を持っているやつなんかは1人もいない。全ては単に金のためだ。どうしてこんなことで金がもらえるのか、この金は一体どこから来ているのか……我々が抗議をすることで何かが起きて誰かが利益を得て、そこから俺たちに金が払われているということなのだろうが、今でも自分がどうして金をもらえているのかはさっぱり分からない。時々疑問に思わないわけでもないが、正直金さえもらえればどうでもいい。ただ世の中は綺麗事だけで回っているわけではない、そういうことなのだ。

実は俺は来月結婚する。妻は沖縄で働いていた時に知り合った元同業者だ。妻のお腹には子供もいる。来週からは原発の再稼働反対運動の現場に3週間ほど出張がある。しばらく妻に会えないのは寂しいが、産まれてくる子供のためにも頑張ってこようと思う。人に褒められるような仕事ではないかもしれないが、自分はプロとして仕事に徹するのだという気概だけは持ち続けていたいものだ。

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