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男女の友情

ユキコとはもうかれこれ10年近い付き合いになる親友である。飲みに行ったり映画に行ったり、恋愛相談に乗ってもらったり何でもないことを連絡し合ったり出来る気の置けない友人だ。よくある、『男女の友情は成立するのか?』という問いに関しては、僕はユキコの名前を挙げて迷わずイエスと答えるだろう。しかしユキコとは、10年前に少しの間だけセフレ関係だった。

まだ知り合って間もない頃だった。飲み会でたまたま隣り合わせて、すみだ水族館でやっていたイベントの話になって、じゃあ一緒に行こうということになって、連絡先を交換して予定をすり合わせて2人で水族館に行った。そのままスカイツリーをうろうろして飲みに行って盛り上がって、そのうちいい時間になって、うち来る?ということになって、そのまま深い関係になった。そこから半年くらい、一緒に遊びに出掛けたりお互いの家に行ってセックスをしたり、そういう関係になった。

順番が違う、だなんてことを言われたりもするが、そこから始まる恋愛だってあるものだ。僕はユキコのことが好きだったし、ユキコもそうなのだと思っていた。このまま恋人になるのだろうと、そう思って疑わなかった。しかしユキコはある時からふわりと僕から距離を取るようになった。わけも分からず、付き合ってくださいというタイミングさえ逃して、僕たちの蜜月は唐突に終わってしまった。

半年くらい空いて、何かのタイミングでどちらからともなく連絡をするようになって、また一緒に遊びに行くようになった。映画に行ったり、美味しいものを食べに行ったり、服を買うのに付き合ってもらったり、でももう互いの家に行ったりホテルに行ったりすることはない。僕たちは『お友達』に収まったのだ。あれから10年。僕たちは仲良く『お友達』のまま付き合っている。

お互い10年歳を重ねたわけだが、ユキコは今も変わらず魅力的な女性だ。今でも時々、ふとした仕草や、表情や、明るい笑顔や、何気ないボディタッチにドキドキしてしまうことがある。何のことはない。僕は今でもユキコのことを恋愛的な意味で好きな気持ちも残っているのだ。ユキコもきっとそんなことは気付いている。『男女の友情は成立するのか?』その問いに関して僕の答えはイエスである。しかしその友情にはほんの数パーセントの下心が含まれる。あわよくば触れたい、キスがしたい、抱き締めたい……そんなひとつまみの下心を木箱に入れて鍵をかけて心の奥の棚にしまって、僕はユキコと親友なのだ。恋愛に様々な形があるように、友情にだってこんな形があってもいいのだ。

隣でビールを飲みながらカラカラと笑うユキコの横顔を見ながら、なんていい女なんだろうと僕は思った。「何?私の顔になんか付いてる?」そんな僕の視線に気付いたのか、ユキコがはそう言ってこっちを向く。「いや……いい女だなぁと思って」そう言うとユキコは、「でしょ〜?」と言って笑った。そう、ユキコはこういうやつだ。

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