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「三島由紀夫(客観)」

捧げる

仮面をつけた
青い時代の髑髏は
横を向いていた

暗闇を見るために
いつ
独りになったのか

砂利道を疾走する
頭蓋骨の馬は
どこで
言葉が漏れたのか

悲しみが
ほとばしる肉体

前に突き出した拳は
それほど
弱かった

軽い美酒に
沈んだ葡萄
翡翠のような眼光

見ることのない
信じていた
思想を
落とし続けた

部屋の明かりは
もうなけなしの
煙草だけだった

変わりゆく時代か
退化した人か
凝り固まった国か
普遍な制度か
無かった信頼か
指切りした愛か

苦悩は満ちるほど
面白くない
頭で
もの耽っていた

もう引っ掻いたり
もう喚き散らしたり
することはなかった

求めた先は
もう削るものもなく
シけた彼だけだった

そうだった
置くことしかで
変えられなかった

彼を象徴とした
空間のなかで
文化的な佇まいで

無機質のペンのような
柔らかい筆のような

脇差しで

怒り
悲しみ
喪失感
空虚
期待
希薄

業火のなかで
燃えかすに
成り行く肉体と
彼方まで輝く魂

闘った

古代まで突き刺さり
宇宙まで消えた

全てを
赦したような
善いとしたような
受け入れたような
顔だった

振り返れなかった

「これがいい。悔いはない、ここを逃すとまた同じ事象が起こるから」

彼の名前は
もう無くなっていた

喜びよ、幸あれ

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