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秋、「キッチン」を手繰り寄せる

もうダメかもしれない、というときに読む本が2冊ある。


1つ目は、江國香織の「思いわずらうことなく愉しく生きよ」で、もっとしなやかに強く生きていかなくてはと思える。


2つ目は、吉本ばななの「キッチン」で、こちらは、とにかく寂しくてやさしい。寒くて今にも泣き出してしまいそうな日のお風呂みたいな、たまらない気持ちになる。
寂しいことは寂しくていい、当たり前だと、特別抱きしめるわけでもなく、ただ隣にいてくれるような、そんなやさしさ。


今朝はキッチンを手繰り寄せてみた。
この本は2年前の秋にとあるすてきな本屋で買った。2年前読んだ時は、いい話だな、くらいにしか思っていなかったのだが、去年の秋にもう一度読み返したらびっくりするくらい心に浸透した。本当にびっくりした。たった1年でこんなにも読める本が変わるのか。



キッチンは、喪失と再生の物語だと思っている。死ぬこと、なにかを失うこと、それでも生きていくということ。
あらすじを書くのが極端に苦手なので、気になった人はぜひ調べてほしいなあと思う。


去年の秋のわたしは特別何も失ってなんかいなかった。でも、とにかくどこか虚しかったし、大袈裟に言えば変に絶望していたような気がしている。このままじゃ全部がダメになってしまうのではないかといった、漠然とした思いでいっぱいだったような気がする。

そんな中読むキッチンは、ありえないくらいの浸透率だった。そこから、この本は自分のいわば精神安定剤になった。


そんなキッチンで特に大好きな言葉たちを書き記したい。
キッチンは「キッチン」とそれの続編である「満月─キッチン2」と全く別の短編である「ムーンライト・シャドウ」の3つの構成でできている。全てが大切で素晴らしいのですが、今回は「キッチン」と「満月─キッチン2」の2つから。


この世には──きっと、悲しいことなんか、なんにもありはしない。なにひとつないに違いない。

キッチンp.34

彼と会うといつもそうだった。自分が自分であることがもの悲しくなるのだ。

キッチンp.38

なにが悲しいのでもなく、私はいろんなことにただ涙したかった気がした。

キッチンp.50

「君の冗談が聞きたかったんだ。」腕で目をこすりながら雄一が言った。「本当に、聞きたくて仕方なかった。」

満月─キッチン2 p.73

「私、私の人生を愛している。」

満月─キッチン2 p.75

「よし、ぱっとやりましょう。命の続くかぎり作ってみせましょう。」

満月─キッチン2 p.77

どうか、もっと明るい光や花のあるところでゆっくりと考えさせてほしいと思う。でも、その時はきっともう遅い。

満月─キッチン2 p.124

「きっと、家族だからだよ。」

満月─キッチン2 p.135




何度読んでも本当に好きだなと思う。
悲しみ、恐怖、不安、そういうどうしようもないものを抱えたって、一歩外に出たらそれなりに普通の顔をして歩かなきゃいけない。とてつもなくひとりぼっちのような気持ちになることもあるかもしれない。
でも、こういうやさしい言葉を心にもっておけば、ちょっとは息がしやすくなる気がするのです。
生きていくのに、そういうので本当は十分なんだと思います。


2年前キッチンと一緒に聴いていた曲。最近もまた聴いていてとても好きだなと思ったので載せておきます。

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