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リトル・イタリーでコーヒーブレイク

昨日、Googleの検索エンジンがメトロポリタン美術館151周年を祝っていた。仕事中であったが私はそれについ魅入ってしまった。同時に、昨年150周年を迎えたメトロポリタン美術館に私がいたことを思い出した。ニューヨークに私は居た。M1を終え、M2になる少し前の春のことであった。

1年前、大学院で地域研究を専攻していた私はCOVID19迫るニューヨークにて資料調査を行っていた。遊びじゃねぇから!と吠え散らかし、資料がどれほどの量になるか予想もつかないまま2週間滞在することにした。しかし、資料は3,4日ほどであっという間に殆ど集めきり、時間を大幅に余らせてしまった。残った時間ですることは当然決まっている、観光である。思い切りニューヨークを楽しむ以外の選択肢はなかった。前述のメトロポリタン美術館やMoMAで古今東西の芸術作品に触れ、タイムズスクエアの喧噪を駆け抜け、思うままに地下鉄に乗り、行き着いた先はリトル・イタリーであった。愛してやまないオノ・ナツメの漫画作品のひとつである『Have a Great Sunday』に登場するヤスの故郷である。

リトル・イタリーはマンハッタンのCanal Streetに位置し、すぐ隣にはチャイナ・タウンもある。遠い故郷を離れ、アメリカ合衆国へ移住した同郷の人々が集いコミュニティを形成した歴史の一端を感じる地区であった。星条旗とトリコローレがはためく道を歩いていると、お菓子の形をした看板が目に入った。

Cannoli Kingという名前のお店であった。看板のお菓子はカンノーロ(伊: cannolo)という名前であり、カンノーリ(伊: cannoli)はその複数形を意味する。私はそこでお茶をすることにした。少し薄暗い店内はダイナーを彷彿させた。

私はコーヒーとニューヨークチーズケーキを注文した。

イチゴソースがかけられたチーズケーキの上には大きなイチゴがのっており、イチゴ好きの私には宝石に見えた。美味しくて、ひと口ひと口を噛み締めた。飲み込まれてしまいそうなスケールの大きなこの街で私は宝物を見つけた。これは大発見であった。ヤスには感謝している。

お腹を満たした私は地下鉄に乗り、帰路に就いた。ホテルの最寄り駅へと近づきながら、私は重大な失態に気が付いた。カンノーロを食べていないではないか。ニューヨークチーズケーキに満足し、完全にその存在を忘れていたのである。あんなに大きい看板があったのに、なんならそのまま店名にされていたではないか。私はどこまでも鈍くさい阿呆である。果てしないお預けを食らったまま私は修士課程を修了し、今に至るのであった。



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