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日朝は動くか ヨジョン登場

来ましたね。
いや、何か/誰かが実際に「来た」わけではないのですが、「もしかすると起きるかも…」と思っていた動きが実際に起きると、人は「来た!」と口走りがちです。

北朝鮮の金与正(キム・ヨジョン)氏が岸田首相の平壌訪問に言及したのです。日朝首脳会談の呼びかけです。

北朝鮮指導部がどこまで本気なのか、どういう思惑があるのか、整理してみます。
(冒頭の写真は平壌にある「主体(チュチェ)思想塔)


能登半島地震に際しての「閣下」

伏線は去年からありました。
まず、5月27日に岸田首相が日朝首脳会談に意欲を示したのです。具体的には、会談実現に向けた「首相直轄のハイレベル協議体」をつくると述べました。
この「ハイレベル協議体」が実際に何なのか、今もってよく分かりませんが、首脳会談に積極姿勢をみせたのは確かです。

すると、北朝鮮側が2日後に反応を示しました。
「日本が新しい決断を下し、関係改善の活路を模索しようとするなら、朝日両国が互いに会えない理由はない」とするパク・サンギル外務次官の談話です。

金正恩(キム・ジョンウン)総書記が岸田首相と「会えない理由はない」。かなり踏み込んだ言い回しです。
この予想外の反応を受けて、日本政府の関係部門はにわかに動きが活発になりました。私もそのうちの数人と話をしましたが、皆、当然ながら北朝鮮側の出方を様々にシミュレーションしていました。

日朝両国は、水面下での接触は断続的に行っています。通常の意思疎通の舞台は北京です。
ただ、北京だと日本の記者たちにキャッチされやすいため、重要な話し合いは東南アジアやモンゴルで双方の代表団が秘かに落ち合って話し合うのが定石です。

結局、昨年のうちは具体的な動きはなかったわけですが、ご存じの通り、今年の元日に能登半島を襲った地震で、金正恩氏が見舞いの電報を岸田首相に送りました。
「日本国総理大臣 岸田文雄閣下」と呼んで。

このあたりは、2月14日、テレビ東京の「60秒で学べるNews」でも話をさせていただきましたが、阪神・淡路大震災や東日本大震災でも北朝鮮は見舞いの電報や義援金を日本に送っています。
しかし、最高指導者から首相への電報は初めてですし、「閣下」という呼称を用いたのも、初めて

不幸な災害が起きたのは、たまたまではあります。しかし、金正恩氏がその機を逃すことなく、改めて日朝首脳会談に前向きなシグナルを送ったと解釈できる一手でした。

金与正≒金正恩

もしかすると、北朝鮮は首脳会談に関してさらに具体的な呼びかけをするかも…と考えつつ、「災害の見舞いに際して丁重な呼称を用いただけ」という可能性もありました。
と思いきや、2月15日の金与正氏の談話。
きっと彼女も前夜に「60秒で学べるNews」を観て…
昨年の外務次官より、はるかにハイレベルです。

そもそも、かの国で「白頭山の血統」は他者との比較が難しいほど別格、まさにロイヤルファミリーです。
そして、金与正氏は兄の金正恩氏を実務面でサポートしてきましたし、何より、兄が直接は言いにくいメッセージを代理で発信するという役割を担ってきました。
最高指導者が述べると、あとから軌道修正するのが難しくなるのですが、彼女が兄の考えを代弁した形にしておくと、容易に修正できるためとみられています。

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