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かんだやぶそば

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1880年(明治13年)創業の「かんだやぶそば」。
このお蕎麦やさんがどれだけ歴史があってすごいお店なのかは様々に情報が溢れている。

最初にこのお店に訪れたのは高校生の頃だった。
当時、ネット情報もなかった時代、「美味いもの」を知るのは専ら本だった。
学校が九段で、帰り道に神保町に寄って本を買い漁り、軽く夕食を食べて帰るということを日課としていたため、知識として仕入れた神田界隈の「美味い店」には率先して次々入っていた。
その蕎麦の総本山的なお店が「神田薮蕎麦」だった。
とても雰囲気のある佇まいは一見の高校生には少し敷居が高くも感じた。
メニューも町の蕎麦屋とはだいぶ違う。
どこに行っても注文できる天ざるセット的なものはなく、天麩羅の盛り合わせは別。
いわゆるかき揚げは「天たね」という名で出されている。
焼き海苔は火種の入った仰々しい木箱に入ってくる。
蕎麦は見事にツルツルとして食べ易いが、辛めのツユをドボンとつけてしまえば辛すぎる。
お上りさんはすっかり舞い上がってしまいながら次々食べていたが、でも頼んだものは全てとても美味しかった。
蕎麦の風味、天麩羅の胡麻油の匂い、そう行ったもの全てがとても心地よかったのを覚えている。
ところが、あっという間に蕎麦がなくなってしまった。
周りを見たら、みんな一枚とか二枚、三枚頼んでいる。
あぁ、そういうものなのか、と初めて頼み方を理解した。
そしてここでは蕎麦の名前は「せいろ」ではなく「せいろう」だ。
もう一つ、この店ならではの注文を調理場に伝える女将さんの声。
「せいろう〜いち〜ま〜い」などとまるで百人一首を詠むかのごとくおっとりしている。
これがまたゆったりとしたBGMのようで気持ちいい。

それから随分通った。
様々な人々と様々に楽しい食事を楽しんだ記憶がある。

2013年、あの雰囲気の良い慣れ親しんだ建物が火事で焼失してしまった。
ニュースを見て呆然とした。
2014年、営業を再開したものの、なんだかあの建物が変わってしまったことを認めたくなくて行かなくなってしまった。

おそらく最後に足を運んだのは2012年の年の瀬。
それからほぼ8年近く経った今日、お昼を神田で取る予定があったので、それならばとなんとくなく足を運んだ。
思ったよりもいい方向に店が綺麗になっていた。
近代的すぎず、昔の雰囲気も残したまま。
味もまったく変わっていなかった。
なんだか安心した。

この8年で変わったのは外国人観光客が多かったことだ。
店員さんもスムーズに英語で案内している。
時代だなぁと思った。

店名が「神田藪蕎麦」から「かんだやぶそば」に変わっていた。
ちょっとバカっぽいけれど、それも時代なのか。

久しぶりにまた通って様々なメニューを改めて制覇したい欲に駆られている。
次に行くのが楽しみだ。

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