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勝手に10選〜イカしたアコースティックロック(前編)〜

(前記)

アコースティックロック、というジャンルがあるかどうかは知らない。

筆者が最初に手にしたギターは10歳の時、アコースティックギター(当時で言うフォークギター)である。
田舎でかつ、洒落たギターショップなどまだ存在しない時代だ。当時はエレキギターなどは見た事も無かった。
見よう見まねで、雑誌の明星や平凡に付随した歌本にみたいな本を見てコードを奏でたものだ。

やがて、エレキギターも手に入れ、ギターの数も増え、かなりの時と経験を経て、現在、愛息のギターまでカウントすると一体、何本のギターが家の中に転がっているか解らない程である。

しかし、不思議な事がある。
未だに愛息とギターを物色に出かけたりするのだが、試奏において、エレキギターの音はなんとなくなのだが、アコースティックギターの音の違いの方が明らかに良し悪しや、キャラクターの違いがエレキギターより遥かによく解るのだ。

恐らく、10歳の時から根っこに染み付いているアコースティックギターの音色に敏感なのだろう。

従って、アコースティックギターで奏でられるロックもを贔屓目に聴いてしまい、実に心地よく安心するものだ。

今回はアコースティックギターが主軸となる演奏であり、かつロックしている、という曲にフューチャーして、勝手に10選する。 

また、ビートルズ編も10選するので、今回はビートルズは除外する。


・Blowin' in the Wind

1963年に発表されたにボブ・ディランのアルバム"The Freewheelin' Bob Dylan"に収録されて後にシングルカットされた曲だ。 

こういった音楽について記していると、いつも頭を悩ませるのが、曲のジャンルである。
筆者にとって、ボブ・ディランはロックだ。

どうも人というものは、物事を事細かくカテゴライズして当てはめて、共有しようとする癖みたいなものがある。
音楽も絵画も文学も受け取る側があるがままに受け取り、自身で便宜上のカテゴライズをすれば良い。
となると、ディランは筆者にとってロックなのだ。

アコースティックギターのシンプルな弾き語り、ハーモニカ、曲の構成もタイトでシンプルだ。

歌詞は、この世に存在する理不尽な物事に対する疑問を呈し、それに対して答えは風の中に舞っているんだよ、と結局誰にも答えは出せない、という内容である。

この曲が発表されて60年経った今も、全ての歌詞が心に刺さる。
という事は答えは今も変わらず風の中に舞っている訳だ。

シンプルなストロークによる弾き語りであるが、ルート音をバランスよく際立たせ、そのルートにおけるランニングが実にテクニカルで気持ちが良い。

人間という生き物が存在する限り歌い継がれる曲なのかもしれない。



・Street Fighting Man


1968年にザ・ローリング・ストーンズが発表したアルバム"Beggars Banquet"に収録され、後にシングルカットされた曲だ。

疾走感に溢れたストーンズのカラーが全面に出ている気持ちの高揚するロックだ。

この曲ではエレキギターを一切使用していない。
キース・リチャーズがアコースティックギターを奏でているが、そのストローク、カッティングが舞乱れ、ミック・ジャガーのボーカルと絶妙に絡み、実に気持ちが良い。

ブライアン・ジョーンズはギターを弾いておらず、シタールとタンブーラを担当しているが、この演奏が主張をし過ぎず、実に曲の雰囲気を形成する上で重要なマテリアルとなっている。

歌詞は、革命を必要とされていても、この寝ぼけたロンドンに路上で戦う者もいないし、貧しい若者はロックンロールを奏でる他に何が出来るのか、という雰囲気だが、解釈は聴き手の自由だ。

実に爽快な、疾走感のある素晴らしいアコースティックロックだ。



・My Sweet Lord


1970年にジョージ・ハリスンのシングルとして発表された曲だ。

アコースティックギターのストロークにジョージ・ハリスンの真骨頂であるスライドギターが美しく、コーラスワークスも見事なミドルテンポのロックだ。

曲のは、Aメロとサビを繰り返すシンプルな構成であり、Aメロとサビで各々2つのコードを繰り返すのみであるが、メロディラインが素晴らしく、心地よく曲は展開していく。

最大の注目すべき点であり、この曲の凄さを実感するのは、途中ドラムが入ると同時に転調する事だ。
曲の真ん中で1回だけ転調して、そのまま曲の終わりまで転調したままで続くのだが、それによって転調前後の雰囲気の緩急が見事につき、転調した後の曲に華やかさが増す、という実に素晴らしいアイデアなのだ。

題名の"Lord"とは"主"や"神"の意味を持ち、この曲は神を賛美する曲である。

シンプルかつ美しい曲であるが為に、この1回の転調によって、更に聴いていて実に気持ちのよい曲となっており、スピリチュアルな歌詞と見事に融合している。



・That's Entertainment


1980年にザ・ジャムによって発表されたアルバム"Sound Affects"に収録された曲だ。

ザ・ジャムというとパンクのイメージが付いているが、多少セックス・ピストルズの影響は受けたとはいえ、始まりはビートルズのコピーバンドであり、ポール・ウェラー自身もスモール・フェイセスを愛聴し、ザ・フーの影響も大きく、ルックスもモッズスーツであり、音楽性、スキルも含めて、筆者的にはザ・ジャムは狭義でもロックが相応しいと考える。

この曲がそんな象徴である。
アコースティックギターのストローク、カッティングが主軸となり、実に軽やかで気持ちの良いロックである。
コードも4つで実にタイトかつシンプルだ。途中で入る逆回転のソロ(エレキだろうか)など、ちょっとしたスパイスも効いている。

歌詞も実にシンプルで、歌詞を要約すると、生きている事で嫌でも見たり聞いたり、迎えなければならない経験などは所詮エンターテイメントなんだ、となる。

軽快でアコースティックが実に気持ち良く、コーラスワークも見事に花を添え、シニカルな歌詞も見事に融合する素晴らしいロックだが、ポール・ウェラーはこの名曲を10分で完成させたのだ。



・Faith


1987年にジョージ・マイケルによって発表されたアルバム"Faith"のオープニングを飾り、後にシングルカットされた曲だ。

ボ・ディドリーが考案したジャングル・ビートに乗せたアコースティックギターのカッティングが実に軽やかに気持ち良く、楽しいイカしたロックだ。

ワム!解散後のソロデビューアルバム"Faith"であるが、これがアメリカで1000万枚以上、全世界で2500万枚のセールスの大ヒットを記録し売れに売れた。
そのアルバムの表題曲であり、オープニングを飾るのがこの曲である。

神々しいオルガンの様なキーボードのフェードインから曲が始まり、キーボードの盛り上がりが最高潮になると突然途切れ、アコースティックギターのカッティングが始まる。

ギターのカッティングとベースが同じタイミングでジャングル・ビートを奏で、恐らく打楽器は打ち込みを使用しており、控えめにする事で、カッティングによるビート感が強調されタイトになり、音の間に空間できて緩急がつき、そこにボーカルが絡まると実に軽快で気持ちが良い。
間奏のカントリーの香るギターソロも見事に華を添えている。

歌詞は、魅力的だが計算高い女性に翻弄されないように、自分の中の信念を持って対処せねば、みたいな印象だ。

軽快で実に明るくリズミカルな楽曲と揺れる気持ちを、素敵なメロディラインに乗せて歌われるコミカルな歌詞が見事に融合した名曲である。



(後記)

後編に続く

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