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「リトル・マーメイド」 その1 すばらしい実写化

ディズニーの実写版「リトル・マーメイド」を観ました。

見事な実写化

基本的に、アニメーション版をまさに「完全再現」した箇所が多数見られ、これ以上ない実写化に成功しています。
トリトン、アースラ、エリックはほぼアニメの印象なままのルックス。
セバスチャンも、カニのひょうきんな顔立ちが奏功していい感じ。
フランダーは可愛さがすっかりなくて残念な感じでしたが(魚だからしょうがないか)。

そしてアリエル。いろんな意見があるでしょうけど、アリエルの持つキュートさと芯の強さが見事に体現されていましたね。
そして、あんまり誰も言っていなさそうなので太字で書きますが、アリエル役の女優の地声がアニメーション版のアリエルの地声によく似ています。だから、すんなり「あ、アリエルだ」と思えた。特に前半は、あえて声を寄せているような気もする。すばらしい。

総じて、「実写化」は高いレベルで達成されていると思います。

見事なアップデート版

1989年公開のアニメーション版「リトル・マーメイド」が素晴らしい映画であることに異論はまったくないです。これまで何度見直したことか。
音楽、キャラクター、ストーリーのテンポ、愛らしさ、純粋さ、どれをとってもいい映画です。

が、冷静になってよく考えてみると、アニメーション版には時代錯誤な問題点があります。
アリエルはエリックにほとんど一目惚れだし、エリックから見てもアリエルに惹かれる理由があまりない(ただの「目の前にいる簡単に落とせそうな可愛い女性」というだけにも見える)。
さらに踏み込めば、構造的には「地位の高い男性が、地位の低い女性を手なずけて我が物にしようとしている」ようにも見えてしまう。
(ここで「地位の低い女性」と書いたのは、客観的に見ればアリエルは粗末なボロ服を着た言葉を話せない(=教養のないように受け取れる)女性だからです。)

はっきりとではないですが、アニメーション版には前時代的な「男性優位社会」が微妙に露出してしまっている。

ここらへんの問題を現代的にアップデートして、さらに現代のあるべき価値観のメッセージを乗せたのが今作だと理解しています。

いったい何を変えたのか

ここからが本題です。
1989年公開の傑作ディズニーアニメーション映画「リトル・マーメイド」を2023年に作り直すとしたら、どうすべきだろうか。すでに多くの人々の心に残っている超有名作品を実写で作り直すとしたら、どういう意義を持たせる必要があるのか。
それらを、「いったい何を変えたのか」を見ていくことで考察したいと思います。

以下、ネタバレあります。


変更点1:黒人のアリエル (ネタバレあり)

アリエルが黒人になりました。はい出た、ポリコレ。以上。
ではないですよね。

アリエルが黒人として描かれています。
一方で、父であるトリトンは白人のままです。先述した通り、ほぼアニメ版のイメージのまま。
「人魚 vs 人間」の対立が際立っていることで、人種の違いは問題にしていないということがはっきりします。「人種間には描かれ方の差があってはならない」というメッセージです。

人種問題についてはきちんと書きたいので次回の記事で詳しく書きます。

変更点2:エリックの物語 (ネタバレあり)

エリック側の物語が大きく追加されました。

まず、エリックは王子ではあるけれども王の実子ではなく王妃である母と意見が合わない。
そして、異国や未知の海域に魅せられている。
そしてそして、秘密の部屋に舶来品の数々をコレクションしている。

境遇がアリエルと一緒じゃないですか。
ああ、どうしてアニメーション版のときにこの設定を思いつかなかったのか。
これでこそアリエルと惹かれ合うエリック王子の誕生ですよ。

これで、『構造的には「地位の高い男性が、地位の低い女性を手なずけて我が物にしようとしている」ようにも見えてしまう問題』が回避されました。すばらしい。

変更点3:エンディング (ネタバレあり)

地味だけれど意外に大きな違いが、映画のエンディングです。

アニメーション版では、人間になったアリエルとエリックがキスをして、そのまま結婚式のシーンになって映画が終わります。
でも今回は違います。
2人が、地図にない海域に向けて出発するシーンで終わる。
「アリエルが人間になって2人が結ばれる」というのは同じですが、「結婚」がゴールでは決してない。
アリエルとエリックが本当にしたかったことをし始めるシーンで映画は終わるのです。
前時代的な「二人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ」ではなくなっています。すばらしい。

まとめ

ということで、前時代的だったアニメーション版「リトル・マーメイド」を、より進んだ現在の価値観にアップデートした作品になりました。

反論は多いと思いますが、これからの時代を生きる子供たちには、実写版の方を「ディズニーのリトル・マーメイドだよ」と教えてあげたいなと思います。それくらいすばらしかったです。
(アニメーション版の方はホント前時代的なんですよね、今観ると)

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