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「ランガナタンの手のひらで」伴美砂都(つばめ綺譚社)
図書館というと、普段のぼくの生活にはあまりなじみがない。古本も、共有資源としての図書館の本もあんまり触れることがない。日本でもトップクラスの図書館が存在する自治体に居住しているにもかかわらず、そしてそれを十分知り得ているにもかかわらず、である。ぼく自身が書店ばかりに行くぜいたくな性格というのもあるが、さらにいえばものを「借りる」ということを極端に減らしたい強迫観念のようなものもあるのかもしれない
もっとみる「エフェメラル・デイズ」宮崎笑子
どこで手に入れたのか覚えていない。覚えていないということは場所が限られる。たぶん、秋葉原のHUBである。きっとぼくはだいぶ酔っていただろう。
なので、本作が横浜を舞台にした小説集であったことを聞いたか聞いていないかも判然としていない。結果的にご本人のツイートが回ってきてぼくはそれを知ることとなり、今回読むこととなった。
なのでぼくは宮崎氏に会った記憶すらほとんどなく、なんどかテキレボ関係の
「PortRay」桜鬼ほか5名(波の寄る辺)
「波の寄る辺」の主である桜鬼(はなおに)氏が主催した合同誌。著者は掲載順に、森大那(もり だいな)、きよにゃ、オカワダアキナ、東堂冴(とうどう さえ)、桜鬼、笹波ことみの各氏。横浜と神戸、ふたつの港町を舞台とした小説群をゆるやかにつないだ合同誌。令和がまさに「船出を迎えた」日に発行された、波の音と潮風のにおいが漂う作品である。
横浜といえば、ぼくもかなり縁が深いまちで、幼少時代と大学時代を過
「天体観測」永坂暖日(夢想叙事)
たしか、ぼくが休止を発表してすぐのテキレボで新刊だったような気がする。発行日的には、おそらくそんな感じだろう。その告知ツイートからぼくはおそらく真っ先にこれを手に入れようと思ったはずだ。なにしろ、地下都市でSFなのだから。ぼくがもっとも好きなジャンルの、もっとも好きな要素が正面で掲げられており、しかもその書き手はかつて現代小説の短編集を読んでその文章力と視点とギミックに(個人的に)安定性を感じた
もっとみる「滅びゆく物語の為の幻燈録」神奈崎アスカ(雫星)
神奈崎アスカ氏と初めて出会ったのは文学フリマ京都での打ち上げの席だったような気がする。ぼくが今ほど純文学を書いておらず、むしろSFやファンタジーの書き手であるということを強く意識していた頃だった。当時は数回軽い話をした程度であったが、名刺を交換していたのでツイッターアカウントをフォローし、なんどかブースも訪れ今に至る。そしてその今に至るまで作品を読んでいなかったわけであるが、はっきり言ってしまえ
もっとみる「熱的死」 転枝(六月のクモノミネ)
思うところあって、この媒体で読んではいるものの、諸事情によりシーズンレース等にのせることができなかった同人誌について感想をまとめたいと思う。
というわけで、栄えある初回を飾るのは転枝氏の作品である。ぼくはかれの書き手としての能力はかれの同世代と比して非常に抜きんでているように思うし、現にぼくよりもずっとずっと書き手として優れている面も多々あると思っている。しかしながらぼくは、はっきり言ってし