気にするな
〝野球少女〟
それが私の肩書きだった。
スポーツ少年団、で、少年野球、で、男の子と一緒に野球をやってた。6年間。
病気になって、障害者になって、車椅子になって、できなくなった。
20歳の夏。去年。
地元の少年野球チームのOBの集まりがあった。
場所は地元の野球球場。
障害者になって、変わってしまった私。無縁になった私。
今の私は、野球に相応しくないどころかギャップ萌えを通り越すほどだ。
もう私は野球を卒業したんだから。
関係ないんだから。
呼ばれるわけがない。
しかも場所は球場。
プロ野球がやるような球場じゃない
地元の、フェンスが錆だらけの球場に車椅子の私が行けるわけない。
だって段差がいっぱい。階段しかない。
万が一、いや、億が一、呼ばれたとしてもどう考えたって行けない。
彼らは健常者だから、
ずっと"そう"だから、
障害者じゃないと、車椅子になってからじゃないと、分からないことは数え切れない。
彼らが悪いんじゃない。
人間はみんな、他人の気持ちを知ることはできない。知ったつもりで過ごしてる。
『○日の○時に○球場で集まるんだけど』
通知がきた。
「知っとるし。」
声が出た。
行きたいけど、みんなの顔見たいけど、6年間〝諦める〟をめっちゃしてきた私は行けないことはもはや特技。
即レスしなくていいや。と思ってスマホを机に置く。と、また通知。
『さなみ空いてる?』
いやいや。笑
空いてたって、私は野球とは…
そもそも車椅子じゃ球場行けないし。笑
『空いてるけど、行っていいの?』
ちょっと濁して返信した。なんか嫌だったから。
返信はすぐきた。
『いいに決まってるじゃん。』
声にならない声で叫んだ。
『OBなんだから』
OBです!!!!
OBでした私。
どんな形でやめたとしてもOBなんです。
喜ぶのはまだ早いぞ、と。
会場は球場。
『私、球場入れんの?笑』
聞いてみた。
入れんの?って。
私の中での答えは決まってたけど。
委ねてみた。なんか嫌だから。笑
〝笑〟も付けてみた。
なんか嫌だったから。笑
『俺が運ぶ』
予想もしてなかったこと言われた。
続けて返信がきた。
『おんぶ』
連絡してきたのは小学生からの腐れ縁の奴。
お互い嫌いな時期もあった。
馬鹿にした日もあった。
一緒に泣いた日もあった。
そんな奴に下心なんてあるわけない。
そもそもあいつにそんな勇気はない。
『重いよ?笑』
と 少し女の子っぽい返信をしてみた。
照れ隠しだった。精一杯の。
『舐めんな笑』
返ってきた。
この会話。少し昔に戻ったみたいだった。
楽しみにしてたけど、コロナ感染拡大のせいで自粛することにした。
『みんなによろしくね』
『来年あったらまた誘ってね』
と だけ送信しといた。
障害とか車椅子とか結局自分が1番気にしてるんだと思う。
気にしすぎて諦めなくていいことまで諦めてるのでは?!とこの時思った。
自分にしか分からないこと。
コンプレックスな容姿だって、抱えてる悩みだって、
自分の狭い視野だけで諦めないで、
頼ってみればもう少し違う未来が見えるかもしれん。
大事なことを教えてくれたあいつ。
成人式で再開したあいつ。
ありがとう。
障害者になったこと、
きっと周りはそんなに気にしてない。
私を1番知ってる私だから
臆病になっちゃったんだね。
頼らせてくれる人はいるんだ。
気にしすぎだよ。
大事なこと、気づけるっていいね。
私だから経験できたんだね。
自分の世界を狭くしてるのはいつだって自分自身なのかもしれない。
気づけてよかったね。
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