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パーソナルコーディネート (お買い物同行)/A氏編

(今回のクライアントさんは個人情報保護のため、お名前はA氏、男性、年齢は50代前半、海外在住で年に数回お仕事で帰国される方、と記載させていただきます)

お仕事中はユニフォーム、普段の格好はカジュアルで、着心地が楽だという理由からスポーツウエアやジャージを愛用されているというA氏。今回の依頼はあまりカチッとしすぎない、スーツ以外の仕事服と “普段着の格上げ“ です。

聴くと、元々着る物には頓着がないご様子。お仕事以外ではアウトドア派で、とにかく動きやすくて洗濯が簡単で着心地が楽なもの、という目線でしか服選びをしたことがなく、自分に似合うものや新しく購入する際に何を選べばいいのか全くわからない。という、コーディネーター的には腕が鳴る案件であるのと同時に「一番難しい」パターンだな、と思いました。

私は普段、店舗で接客販売をしているのですが、このパターンのお客さまは両極に分かれることが多く、良きに振れると “へんし〜ん!” となって大満足、悪しきに振れるとグズグズといつまでたっても決断できないで結局何も買えない。という最悪の結果になる恐れがあるのです。なぜそうなるのかと言うと、ご本人の中に「軸」がないからです。いいのか悪いのか、好きなのか嫌いなのかの軸がない。判断ができないのです。だからどれに対しても「ふ〜〜ん」という言葉しかなく、こちらとしてもご本人が好きなのか嫌いなのか、着たいのか着たくないのかの意思が全く読めない状況になります。

こうなったら日頃接客業で鍛えているコミュニケーション力を最大限に発揮して、言葉以外のノンバーバルでの心の機微を読み解いていく作業が必要になります。何万人と接客してきた経験の本領を発揮する場面です。

一番重要なのは、フィッティングルームから出て来られた時の表情をしっかりと確認することです。「これはイマイチかな?」「お!気に入ってるみたいだな」「しっくりきてないみたいだな」と、感覚的に察知することが大事です。

何故なら、ご本人には選ぶ「軸」がないので、どうしても私の主観で似合うものを選んでしまいがちなのですが、それがご本人にとって本当に「着たいもの」であるとは限りません。似合ってはいるけれど着たくない。これではせっかく買ってもお蔵入りになる可能性大です。これは例えば洋服のサブスクサービスにありがちな落とし穴です。ある意味一方的なプロ目線の押し付けであり、ご本人の意思を無視した状態です。「似合うんだからこれを着なさい」と言われてもご本人がしっくりこない場合、モヤモヤが残り納得感がない。これではサービスを利用する価値はありません。

軸がなければ少しずつ探っていく。何着も試着を繰り返すうちに必ずそれは芽生えていき、育っていきます。その感覚を大切にしながら、比べ、検討し、絞っていく作業を根気よく重ねていきます。


当日より何日か前に、私は単独で下見をしていました。今回のクライアントさんとは全く面識がなく、当たり前ですが性格や雰囲気も分からないままに挑まなければなりません。事前に情報で頂いていたお写真だけを頼りに、私なりのイメージで数軒のショップに見当をつけてリサーチしてきました。多分こんな感じが似合いそうだな、というお店の中で、こちらの着慣れたアメカジ路線で行くか、あちらの全く違った上品なゆるファッションで新しい雰囲気をご提案するか。大きく二つの軸を前もってご用意していました。

選ぶことが苦手な方は、たくさんの選択肢を差し出すことは避けなければなりません。多くて三つ。できれば二つが理想です。「この中から自由に好きなのを選んでください」ではなく、「こちらとこちらではどちらがお好きですか?」という問いには答えやすいのです。これも長年の接客業で学んだテクニックです。

パーソナルコーディネートの場合は選ぶフィールドはなるべく広く(選択肢は無限大に)、その中からのご提案はググッと絞って。何故なら無限大の選択肢の中を右往左往していては何時間あっても足りないからです。時間は有限。焦らずゆっくりと比較検討し、試着を繰り返す作業は2時間を目処にするのが最良 (試着を繰り返すことは意外と疲れますからね) だという結論に至ったのは、パーソナルコーディネートを始めて経験する中で学んだことです。

“服選び”という内容は同じでも、普段の接客販売の仕事とは全く違う角度や目線で進めていくことが必要であり、それは私の中での新しい発見でした。


お写真を見て、最初のインスピレーションで「このブランドは絶対似合う!」と、下見の段階で見当をつけていたショップで選んだのは、ご本人が普段は全く着たことがないような雰囲気のもので、私的にはイチかバチかの勝負です。

セレクトした段階でのご本人のリアクションは「へぇ〜、着たことないですね」でした。好きも嫌いもない反応。大丈夫、そこは想定内です。

私はこの洋服の良さを説明しますが、あまり刺さっていないご様子。そりゃそうでしょう。興味のないものを一方的に推されても「ふ〜〜ん」としか言いようがないですよね。だったら実際に着て頂きましょう。

試着室から出てこられた時、「これだな!」と私は確信しましたが、それは私の主観ですから、なるべくフラットにご本人の印象を伺います。
すると「こんな感じでいいんですか?」と少し照れながらまんざらでもなさそうです。全く着たことがない類の洋服を着てみて、少し戸惑われているご様子です。

それは今年の流れの中心である“ゆるカジュアル“なデザインですが、選んだパンツは後ろウエストゴムで、ダボダボの渡り幅もクシュっと折り返したくるぶし丈も全てが「?」なご様子です。普段はスリムなデニムやスタンダードなスーツのスラックスを履き慣れた方にとっては全く未知の領域なのでしょう。

パンツはMサイズでもかなりウエストにゆとりがありますが、トップスに合わせた生成りのカットソーは敢えてLサイズを選びます。いわゆる「細マッチョ」な体型をされているので着痩せするのですが肩幅と胸板が半端ない。このゆるファッションをおしゃれに見せるにはトップスのサイズ感はとても重要です。MサイズとLサイズを試着して比べてみると一目瞭然。ご本人も納得でした。

アウターはいわゆるカバーオールと呼ばれるワークジャケットを選びます。シャツ型のデザインでオーバーサイズ。明るいサンドカラーで春から秋まで対応可能な万能ジャケットです。ブランドの良さはトータルでコーディネートした時に生まれる統一感と、主張のあるオシャレが楽しめることです。自分を “こんなふうに見せたい“ という希望を簡単に叶えてくれます。全体的に見て「雰囲気あるなぁ」と思わせる。いいものはいい、という納得感を得られます。

ショップの方にはひとまず検討する旨を伝え、次のお店へ。何件かを巡り、素材や生地や縫製などをチェックしながら試着を重ね、それぞれ比較検討していきます。

着てみないと分からないことは沢山あって、その都度一人一人全く違う理由でジャッジしていきます。例えば体型、年齢、シチュエーションなど、本当にこれがご本人にとって必要か、相応しいかは着てみて初めて分かることです。その選別はやはりプロの目線が必要であり、何故これではダメなのか、またはこれがいいのかを説明していきます。それが今後のご本人の服選びに少しでもお役に立てれば価値あることにつながると思って、一つ一つ真剣に検討し、レクチャーしていきます。

最後に選んだのはお仕事用のセットアップです。しかしこれも特殊なもので、いわゆるビジネススーツとは一線を画す、ご本人にとってはとても新しいご提案となりました。

生地のマテリアルの開発は日進月歩です。毎年どんどん新しい素材が出てきます。吸汗速乾などの機能性を追求したもの、地球環境に配慮したエシカルやサスティナブルを意識したもの、防汚、防水、防透、洗濯などのお手入れが簡単、などのようにその特徴は様々ですが、一様にして言えることは「着やすい」「扱いやすい」「新しい感触」など、新鮮で着心地の良いものが多い印象があります。

例えば今回セレクトしたセットアップは、登山用の服などに使われる生地で、とにかく軽くて楽。ストレッチが効いていて体が自由に動かせます。おまけに自宅で洗濯が可能。ショップの方に聞くと、テーラードの衿に芯地を使っていないそうです。だから安心して洗濯できるのですね。とても薄くて柔らかい生地で、芯地は入っていないのにペラペラ感が無くきちんと見える。パンツのウエストは今どきの後ろゴム。シルエット的には非常にスリムで若々しく、これまでのスーツやジャケットスタイルの概念を一掃するような軽やかさに一目惚れです。(私がw)
畳んでバッグにポイっと入れて出張先で着替えても全くシワにならずに綺麗に着られる。夏の暑い時期には理想的ではないでしょうか?

実際に着てみると、その着心地の良さにご本人も満足げなご様子です。お色はスタンダードなグレーと今年の流行色のオリーブグリーンがありましたが、ここは二人とも断然オリーブグリーンがいい!と意見が一致しました。段々と「選ぶ楽しさ」が芽生えてきたご様子に私もテンションが上がります。生地の軽やかさとカジュアルな雰囲気に、このナチュラルなオリーブグリーンが映えます。とても今どきな、スリムで無駄のないシルエットのオシャレなセットアップです。

そして何より、体型の美しさが一段と映えます。こんなに薄くてストレッチの効いた素材は、実はある意味、身体が綺麗でないとなかなか着こなしが難しいのです。凸凹が全部出ます。身体のラインに自信のない方にはお勧めしませんが、A氏にはピッタリ!「あなたのために作られた服です!」と言いたくなるようなものでした。奇跡的にも袖丈やパンツ丈がお直し無しでピタリとハマったのも選んだ理由の一つです。あぁ美しい。

インナーにはこれまた技ありのシャツを。ボタンダウンでネクタイの必要がなく、素材はカットソーの半袖シャツです。色はもちろん白。オリーブグリーンには白のインナーがベストです。ある意味遊びの要素が多いセットアップなので、中はきちんと感と清潔感のあるアイテムで引き締めます。お仕事には最強の組み合わせでしょう。

セットアップはMサイズでジャストでしたが、今回のインナーもやはり体型を考えてLサイズにしました。肩幅と胸板がご立派なので、細身のインナーは窮屈な着心地になってしまいます。同じブランドでもアイテムそれぞれを試着してサイズを確認することは大切です。

カチっとし過ぎない、でもきちんと見えてお仕事関連の人と会う時や、ラフな会食の時などにもフル活用していただけること間違いなしです。ご依頼通り、これまでのスーツの印象とは全く違う、ファッショナブルで軽やかなお仕事着が完成しました。


一通りショップを巡り、試着の度に写真を撮ってきて (今回は忘れなかった!) 、ここからは最後の取捨選択です。私なりのセレクトの理由を説明しながら、お薦めするものをご提案していきます。そしてご本人も納得のご様子で、最終的に下の2パターンのセレクトが決まりました。

「こんな感じでいいんですか?」と最初は戸惑い気味でしたがとても新鮮でまんざらでもなさそうなご様子
今年イチオシ、大人のゆるカジュアルはクオリティの高さと品の良いカラーで着こなして
新素材のマテリアルでこれまでにない軽さと着やすさ
インナーのボタンダウンシャツはカットソー生地です
スリムで無駄のないシルエットが美しい
お仕事や会食用のオリーブグリーンのセットアップ
選んだのは右側のオリーブグリーン
色ちがいは左のグレーでした
色によってずいぶん印象が違いますね


今回はこれまでにない、面識のないクライアントさんとの一発勝負のような仕事でしたので緊張しましたが、終わってみればいつも通りの大満足なセレクトができたと自画自賛でした。「いい買い物ができました。またよろしくお願いします」とおっしゃっていただいて、とても嬉しかったです。こちらこそ、ありがとうございました。


〈今回のお仕事内容と料金〉
*内容 パーソナルコーディネート お買い物同行
*場所 有楽町ルミネ
*ショップ MHL  / ユナイテッドアローズ
*時間 2時間15分 (下見は入りません)
*料金 15,000円 (2時間を目安にしています。延長料金はかかりません)

*パーソナルコーディネートのご依頼はツイッターDMまでお待ちしております。ご質問、お問合せなどもお気軽にどうぞ。

以前のお仕事は下のマガジンでお読みいただけます。ご参考まで。

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