社川 荘太郎

ショートショートや短編を公開しています。 『ショートショートの宝箱Ⅴ』(光文社文庫)に…

社川 荘太郎

ショートショートや短編を公開しています。 『ショートショートの宝箱Ⅴ』(光文社文庫)にショートショート「リズという名の男の宇宙船」が掲載されています。 【なにかあれば】qreep25@yahoo.co.jp

マガジン

  • 《ジャパニーズ・フィフティ・ピープル》

    とある田舎町を舞台にした関係ありそうでなさそうな50人のドラマを描いた連作短編小説。 ※構成のみチョン・セランさんの『フィフティ・ピープル』(亜紀書房)の影響を受けていますが内容についてはは関係ありません。

  • 《ショートショート集》

    傑作間違いなしのショートショート集です。たまに傑作以外も混じっています。探してみてください。

最近の記事

【連作短編小説】「ジャパニーズ・フィフティ・ピープル」(山岸 哲夫)

 加賀屋町役場は職員数約二〇〇名程度でありほぼ全員が顔見知りといってよかった。  そんな中で、若手職員同士で飲み事に行くと必ずといっていいほど話題にあがることがあった。"最も上司にしたくないのは誰か"ということである。  その結果は少なくともここ数年は変わっていないため、最近では最初から"二番目に上司にしたくないのは誰か"について話をした。  一番上司にしたくない男、山岸哲夫係長。哲也以外は誰もがそう言ったし、もちろん直属の部下もそのように思っていた。  その日、哲夫はいつ

    • 【連作短編小説】「ジャパニーズ・フィフティ・ピープル」(佐々木 千佳)

       SNSは毎日のようにどこかで炎上している。だがこれほど炎上を身近に感じたことは千佳にとって初めてのことだった。自分自身が炎上した訳じゃないにも関わらず、だ。  きっかけは、だいたいの炎上がそうであるようにささいなことだった。とある妊婦がSNSに投稿した一枚の写真が、心ない言葉とともに拡散されたのだった。  その内容は、妊婦が産休に入る際に『産休をいただきます』というメッセージとともに赤ちゃんのイラストが描かれたクッキーを配ったというものだった。批判する人たちの意見としては、

      • 【連作短編小説】「ジャパニーズ・フィフティ・ピープル」(金子 悟)

         二人の女性から翻弄されることなど、自分の人生には起こりえないと思っていた。  地元の大学を卒業し、そのまま地元の加賀谷町役場に入庁するまで、女性には無縁の生活を送ってきた。  それが入庁してようやく一年が経ったには二人の女性が自分の仕事や人生の大部分を占めてしまっている。つくづく不思議なものだと悟は思う。  ただ問題は、それが決していい意味での翻弄ではないことだった。 「金子さん、三角さんからお電話です」  火曜日の朝九時半。そう言って電話を回してくる先輩の目は笑ってい

        • 【ショートショート】「シャワールームの殺人」(2,036字)

          「人が死んでるぞ!」  そこは密室だった。狭い空間には人がひしめき合っており、そのくせ静かな空間にその叫び声は場違いに響いた。 「誰がやったんだ!?」「お前か?」「いやお前の方じゃないのか!」  ヒステリックな声を遮るように俺は言った。 「こんなときくらい静かにしたらどうだ」  周囲にいた人たちが俺に注目した。俺は自分の名を告げた。 「私立探偵のサウルだ。専門は殺人事件」  人々はしばらく逡巡した素振りを見せたあと、誰からとなく事件が発覚したときの状況を教えてく

        【連作短編小説】「ジャパニーズ・フィフティ・ピープル」(山岸 哲夫)

        マガジン

        • 《ジャパニーズ・フィフティ・ピープル》
          3本
        • 《ショートショート集》
          70本

        記事

          【毎週ショートショートnote】「最後のマスカラ」(410字)

          「部長、新入社員の僕に相談とはなんでしょう」 「聞きたいことがあるのだ」 「はあ、僕で答えられることなら」 「マスカラを知っているか?」 「女性がまつ毛に塗る化粧品のことですか?」 「もらったんだ」 「部長が? 誰から?」 「娘だ。五〇歳の誕生日プレゼントに」 「塗るんですか? 部長が?」 「塗らん。化粧などしたこともない。だが目的が分からなくてな。娘と同じくらいの年の君ならなにか分からんかと」 「ははあ」 「分かったのか!?」 「女性が男性に化粧品を

          【毎週ショートショートnote】「最後のマスカラ」(410字)

          【ショートショート】「冷蔵庫から見る世界」(5,624字)

           冷蔵庫は冷却機についた霜を取り除くとき、コンプレッサーがブーンという音を出します。  よくそんなことを知っていると思われるかもしれませんが、それは当然のことでした。私は冷蔵庫なのですから。  ここは家電量販店でしょう。薄暗い店内には、私よりもさらに大型の冷蔵庫や電子レンジ、掃除機などが並べられていました。  今日はセールの日なのか、いつもはほとんど人が来ない店内は多くの人で賑わっています。 「あ、あっちの方がいいんじゃない?」 「さっきのと比べるとあんまり可愛くないね」

          【ショートショート】「冷蔵庫から見る世界」(5,624字)

          【短編小説】「『おはよう』を届けるアプリ」(8,376字)

          「おはよう!」  明るくはつらつとした声で私は目を覚ました。  部屋には誰もいない。私は狭いアパートでひとり暮らしだった。 「おはよう」、その声を私に届けたのはスマートフォンのアプリだった。 「おはよ、誰かさん」  私は返事をして、仕事へ行く支度をはじめた。    ※  朝起きて出社するまで誰の声も聞かない生活が続いていた。  私は四人兄弟の一番上で、にぎやかな家庭に育った。朝起きて誰からも「おはよう」と声をかけられない日々はもの寂しくて、慣れるまでに相当の時間がか

          【短編小説】「『おはよう』を届けるアプリ」(8,376字)

          【ショートショート】「AI家電大戦争」(5,682字)

           ついに憧れの一人暮らしが始まった。  福岡県内の公立大学に合格が決まったのが先月。電車で通えない距離じゃなかったけど、電車に揺られる時間があれば少しでも大学生活をエンジョイしたかった。  サークル活動にアルバイト、時間が余れば少しくらい勉強したっていい。ひょっとしたら彼女なんかもできちゃうかもしれない。  だが、そのためにはまずやらなければいけないことがあった。  僕は足を踏み入れたばかりのアパートを見渡す。  1DKの広くも狭くもない学生用アパートはソファベッドが一つ

          【ショートショート】「AI家電大戦争」(5,682字)

          【ショートショート】「旅館経営会議は踊る」(1,956字)

          「それではこれより第九十二回旅館経営会議を始めます」 「うむ」 「それでは早速議題に——」 「その前に、今日は研修生が参加してるから、ほら、挨拶して」 「先日からこの旅館で勉強させていただいています、アサブです。よろしくお願いします」 「この旅館の事務長のタナカです。どうぞよろしく」 「アサブ君はこの旅館で勉強して、ゆくゆくはこの旅館で雇いたいと思ってるから、いろいろと教えてあげて」 「分かりました、社長」 「アサブ君はまだ大学生だけど、非常に成績優秀な人材な

          【ショートショート】「旅館経営会議は踊る」(1,956字)

          【ショートショート】「羽を伸ばす」(1,951字)

           友人と休みを取ってちょっと羽を伸ばしに温泉まで行こうということになった。  福岡県からレンタカーで高速に乗りおよそ一時間半。私と友人の白鳥は佐賀県にある温泉旅館に到着した。 「部屋広っ」 「わー景色も凄い」 「ここ露天風呂がいいらしいよ」 「食事も有田焼に乗ってくるんだって、贅沢だよね」 「お茶を使ったお酒もあるって」 「飲みたい飲みたい!」  私たちは荷物を置いてひとしきり騒ぐと、並んで温泉に入った。 「最高」 「最高」 「もう死んでもいい」 「もう死んでもいい」

          【ショートショート】「羽を伸ばす」(1,951字)

          【ショートショート】「電化製品創世記」(5,307字)

          一日目 暗闇がある中、神は光を作った。これにより昼と夜ができた。 二日目 神は天を作った。 三日目 神は大地を作り、海が生まれ、地に植物を生えさせた。 四日目 神は太陽と月と星を作った。 五日目 神は鳥と魚を作った。 六日目 神は獣と家畜を作り、神に似せた人を作った。 七日目 神は電化製品と家電量販店を作った。 <旧約家電聖書『電化製品創世記』より> 「ちょっと用事があって出てくるから、エデンの園の留守番を頼んだぞ」神は言った。 「どのくらいで戻ってきますか?」  アダ

          【ショートショート】「電化製品創世記」(5,307字)

          【ショートショート】「迷子の旅館」(1,993字)

           困ったことになった。  友人と温泉街を歩いていると迷子の旅館を見つけた。  小さい旅館だった。まだ子供なのだろう。使われている木材はまだ新しく、入り口も成人男性の腰くらいの高さしかない。露天風呂が付いていたがお尻を浸けるだけで精一杯だろう。 「きみ、どこから来たの」  友人が特に優しくもない口調で声をかけた。が、子供の旅館はただ泣くばかりだった。  旅館といえども泣いている子供を置いていくわけにはいくまい。予約している宿に向かう途中だったが、少し遅れる旨を連絡してから私

          【ショートショート】「迷子の旅館」(1,993字)

          【ショートショート】「非日常を往け!」(2,008 字)

           旅とは日常を離れることである。  ハレとケとはよく言ったもので、日常というのは仕事やワイフによるストレスが積み重なり非常によろしくない。旅をするときは日常からなるべく遠く離れた方がよい。  私は町内会長の田中さんのそのような話を聞きながら、町内会の旅行の下見へと温泉街に車を走らせた。  田中さんの非日常の旅は出発したときから始まっているらしく、温泉街に行くと言っているのにアロハシャツを着ていた。ちなみに現在は十一月である。  予約していた旅館に着くと、田中さんはチェックイ

          【ショートショート】「非日常を往け!」(2,008 字)

          【ショートショート】「華麗に泳ぐ熱帯魚」(4,027字)

           ≪一日目≫  いつもは大好きなカレーなのだが、今日はまったく味がしなかった。  きっと一緒にご飯を食べているお父さんもお母さんも同じだろう。  先ほどからお父さんとお母さんは真剣な表情で話をしていた。  会社の健康診断で引っかかって……  大きな病院で精密検査……  悪性腫瘍の可能性が高い……  そんな言葉が、私の耳に入っては通り過ぎていった。  信じられなかった。あんなに元気そうだったお父さんが——。  ただ、思い返してみれば、このところ体調が優れないからと、休

          【ショートショート】「華麗に泳ぐ熱帯魚」(4,027字)

          【短編小説】「人間の檻」(8,121字)

           広い空間だった。  俺が通った小学校の体育館よりも二回りほど大きいだろう。どこかの研究施設だろうか、壁は真っ白で、その病的なまでに清潔な白さがどうにも俺を不穏な気持ちにさせた。  そこには多くの人間がいた。  百五十人か二百人か、もっといるかもしれない。下は小学校中学年くらいの子供から上は車いすに乗ったよぼよぼの爺さんまで幅広い。もちろん男性も女性も混ざっていた。  そこにいる人間たちの何人かに、俺は見覚えがあった。  あそこにいるのはかつて世間を騒がせた連続水道水脳漿混入

          【短編小説】「人間の檻」(8,121字)

          【ショートショート】「静寂と喧騒の中で」(7,160字)

           やかましい。  なんとかならんのだろうか。  田中一は怒っていた。  齢四十を迎え、新築で憧れのマイホームを購入したはいいものの、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い出社回数が激減。在宅ワークとかいうものが始まったが、出社しないのをよいことに部下たちは仕事をサボり、上司からは業績が悪化しているのはお前の監督不行き届きが原因だと詰られる。  これはいかんとやっきになって仕事に取り掛かろうとするが、近所の公園では幼稚園児たちがやいのやいのと騒ぎ立ててまったく仕事にならない。  

          【ショートショート】「静寂と喧騒の中で」(7,160字)