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【十二国記感想】③ 琅燦の誤算

 ネタバレあります

 「白銀の壚 玄の月」を読み進めると、阿選については、「そーかそーか、じゃ、ま、しかたないやね。」となるわけですが、逆にますます分からないのが、琅燦です。そして阿選ではなく、琅燦に言いたくなります。


 「何がしたいちゅうねん!」

 

 「王と麒麟をめぐる天の摂理を知りたいが、誰も教えてくれないから試した。」

 ここで琅燦の知りたい「天の摂理」とは、簡単にまとめると次の二つだと思います。
 1、国には王がいなければならない。その王は麒麟を通じて天が選ぶ。
 2、王は天意に沿って国を治めなければ、麒麟が病み、王は(多くは麒麟
も)命を落とし、新たな王が誕生する。


 これに対し琅燦は"天の摂理を動かさずに阿選の天下であることが重要"であるとします。阿選陣営の人々が実権を握り続けるために。そして自身の実験のために。
 阿選はもちろんこの状態が望ましいし、「驍宗を殺せば済む」などと言っていた張運も、この理屈に納得するのですが、それは自分たちに都合がよいからです。
 けれど、驍宗を尊敬していたにもかかわらず、知りたいがために驍宗を陥れ、結果として国を荒らしてしまった琅燦。一見単純な摂理なのに、何を知ろうとしたのでしょう。そして何が彼女にそこまでさせたのでしょう。ただ「知りたかった」だけ?


 私は、琅燦の実験に大きな誤算があったと思うのです。
 一つはもちろん驍宗と泰麒の行方が分からなくなったことです。
 しかしそれ以上に大きな誤算、それは、「阿選が全く政治を行わなくなってしまったこと」だと思うのです。実体のない驍宗の影に負けて。

 琅燦は阿選が、本来持つ有能さで、驍宗に代わってきちんと国を治めることを期待していたのではないでしょうか。
 その上で、王と麒麟が実権を持たない国の在りようが許されるか、ということをを知りたかったのでは。

 つまり、王と麒麟を形骸化し、でも健在なので天が口出しできない状況を作り、王以外が仁道をもって天意に沿って国を治めることは可能か、ということです。天は許すのか。

 もともと琅燦は黄朱の民。天の理から外れざるを得なかった人々です。自分たちを庇護しないし、自分たちのような存在を作り出してしまう「天」というシステムに不信感を持っている。天の摂理があるために生まれる苦しみが許せない・・・と思っていたのではないか、などと感じたのです。

 天の摂理で生じる苦しみ、それは、天が定めた王が荒れることでしょう。それによって、戸籍さえ失いどこにも居場所のない民が出てしまう。
 天が定めたのだから、天以外には変えられない。また、麒麟の失道によって王が倒れるまでの期間や、新たな麒麟が成獣となり次の王を選ぶまでの期間が、寿命ある人の一生にとっては取り返しのつかないほど長い期間であることが多い。だから王の失道、交代を伴わない国の治め方を実験。

 うーん、穿ちすぎだろうか・・・。

 驍宗に対しては、王だからでなく人として尊敬しているし、琅燦は民が苦しむことを望むような人柄ではないと思うのだけれど・・・。阿選に泰麒が誓約したことには非常に不満そうで、「この国の王は驍宗様だ。天もそれは分かっているはずだ。なのに。」忌々しい、と述べています。
(泰麒の阿選への誓約シーン、すごい場面でしたね。ザ・ホラー!シリーズ内でも屈指の名シーンでは)

 本来は、阿選がきちんと国を治める状況で、天がどう関わってくるのかを知りたかった。ところが阿選は、あの体たらく。だから琅燦は阿選に必要以上に辛辣に当たるのでは?
 「期待外れなんだよ、まったく。あたしの実験を邪魔しやがって」 笑 実際の阿選へのお言葉も、ドS女王様並みです。

 そして二人とも「こんなはずじゃなかった」って、六寝に引きこもった。コラ!

 王と、それ以外の人々の違い。
 うまく世が治められなければ、王は死ぬしかない。だからますます足掻いて国を荒らすかもしれない。切羽詰まっての弑逆も、禅譲もなかなかハードルは高いです。必ず王の死!そして空位の時代。

 王以外なら、辞めても死ぬことはない。それだけでもハードルは下がります。国が荒れ始めても、天が裁定を下すまで長い期間待つ必要がない。 
 本人に自覚があれば辞めるだろうし、周りが辞めさせることも可能。
 人の性として、国を荒れさせ始めた人が簡単に権力を手放すかどうかの問題はありますが・・・。
 何といっても、人が自分たちで判断できるところが大きい。

 (人が治める世だって、すんごく難しいよ。むしろ天に罰してほしいこともあるw とは言いたいけれど、それは置いておきましょう。)

 もう少し突っ込むと、王は「覿面の罪」に縛られている。他国の民が困っても王はなかなか動けない。王以外の人なら助けを差し伸べられるのでは。
 琅燦が、そこまで人道的で、国際問題に心を砕いているかというと、そうでもないとは思う w ので、これは蛇足ですが。


 と、今まで一つの可能性について書いてきました。
 文章にしていると、論点を絞らねばならないので、ここまで書きましたが、頭の中はまだまだいくつもの可能性が、いっぱい。
 琅燦、やはりただ興味に勝てなかっただけかもしれません。王の意図でない他国への出兵も試して、覿面の罪が王に下るかまで試す気だったとか。
ひーーー
 阿選が国を荒らすことも想定内で、その場合王と麒麟に天が何をするか、観察したかったのかもしれません。

 そしたらもう、琅燦は美人サディスティック・マッドサイエンティスト。OH! それはそれで魅力的ではありますが。
 「驍宗様」のことはずっと尊敬している様子だし、血も涙もない感じでもないしなぁ。韜晦術に長けていて、読者も翻弄♡

 琅燦の真意やその後、玄管との関連など短編集で少しでも知りたいところです。今のところ、これまでと同じように、脳内グルグルだけですね。
 ここまで書いて、それかいw。

 さて、それにしても阿選や琅燦達も、李斎側も恐れていたのは、「国がこれだけ荒れても驍宗の意図でないから天が動かない」という状況を、天がどこまで許しておくか、ということです。結果として国は相当傾いているわけですから。

 最終的に天意が驍宗から去ってしまうことを、恐れたり可能性として否定しきれないでいる両陣営。
 琅燦はそれを知るために、やはり驍宗と泰麒には目の届く範囲にいてほしかったでしょう。
 そして「王の意図」を、天は考慮してくれるのかどうか。それも知りたいところです。天の許容を知る手がかりは麒麟。(天意やら民の苦しみやらを反映して、具合が悪くなったりする麒麟。なんだかリトマス試験紙みたいで気の毒です。)

 今回はここまで。王の意図と天意との関係など、まだまだねちっこく考え続け、次回も書き込むわけです。執着してます。

つづく

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