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私たちから



LDR室の中で、10分間隔くらいの陣痛の中、
子宮口は4cmほど。2、3回の内診。
噂には聞いていたけれど、痛い。先生が怖く見えてしまうほど。


「このまま下から産むために陣痛に耐えるのもひとつ。
産まれる時に赤ちゃんは旋回しながら産まれるけれど、
羊水が少なくてうまく回れていないと思う。
もしかしたらうまく進むかもしれないけれど、
帝王切開するなら、夜になる前に、今決めたい。」

もっと詳しく優しく説明してくださったけど、こういう様なことを言われて、
入院してからずっと経膣分娩のリスク、帝王切開のリスク、どちらもきちんと説明してくださってて、ずっと帝王切開で産むものと思っていたから
早く痛みから解放してください!という気持ちで、何回も頷いていた。

とにかくこの子が1番安全な方法で。
31週2日、19週からせまいせまい部屋の中でよく育ってくれた。
羊水が少なくてエコーも全然鮮明じゃなくて
3Dエコーも見れなかったからどういう顔かはあんまりわからないけど
この子の頑張りを無駄にしないためにも、今帝王切開しよう。




陣痛の波が引くタイミングで、手術室に移動して
手術台に登って、麻酔を打ってもらって。

胴体の感覚がない、あったかくて全身がぼーっとしている感じ。
やっぱり怖いから助産師さんに手をにぎってもらいながら。

手術が始まってからは和やかなムードだった。
子の名前のことを話しながら、夫と出会ってからのことをずっと思い返していた。




私は中学生の頃から流行りの漫画を読むのと同じように、
恋愛の漫画や小説をたくさん読んできた。
男女の性の話、同性同士も、人間じゃない同士も。
人を好きになるって、人間の欲って、こんなにひとりひとりが違って、
その世界の広さが面白かった。


夫は私と付き合うまで、
男女は結婚して同じ家で過ごしていると自然に赤ちゃんが宿ると思っていた。
そのくらい恋愛に触れてこなかった。


私にも夫にも性欲はある。
なので私は2人きりになれば夜を共にすれば、体を重ねると思っていた。
夫は違った。
知識をもった上で、1%でも私の体に命が宿る可能性がある限り、責任が取れる年齢になるまで、そういう行為はしません。と
私がどうしてもしたいと言っても、私を大事にしたいから、待っててほしい。と
大学を卒業する直前まで言われた。
ちゃんと欲情はしているのに。夫の理性をただただ尊敬していた。

関係性が変わる気がして怖かったのもあるみたい。



私たちは男女としてはそうやって過ごしてきた。
性欲を無しにして向き合う時間が、共有する時間がとても長かった。
そのことが私たちをもっとずっと深い場所で繋げたんだと思う。


今産まれようとしてくれている命も
流れに身をまかせてじゃなく、なんとなく子ども欲しいじゃなく、
何よりも大好きな夫と結ばれた命。


早く会いたい。


手汗に気がつかないほどきつく握ってしまっていた手が、
我が子を取り上げるために解かれた。

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