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響子と咲奈とおじさんと(34)

  巡り会いへの序章

咲奈と響子は、都内のとあるホテルに居た。
来年度、国家公務員になる大学生を招待し、現役国家公務員から話を聞けると言うセミナーへ参加していた。
が、しかし、、、
「ねえ、咲奈。これってさ、独身の先輩たちを前にした新人のさ、品評会とか展示会に思えない?」
「やっぱ、そうよねぇ、、、悪いけど、パッとしない人達がさあ、何も知らない新人に顔繋ぎしてるみたいよね、、、目を付けた子の所ばっかし行ってるし、、、」
「早々に退散しますか?」
「うん、そうしよう、そうしよう。っでこれからさ、どっか飲みに行く?」
「良いねぇ、、、下のロビーで休んでからどっか行こうか。」
「うん、そうしよう。」

咲奈と響子が1階にあるロビーのソファーで寛いでいると、そこへ数人の人が通りかかる。会社の重役らしき人、秘書の様な女性。エリートっぽい海外の人と40代のサラリーマン。
英会話で談笑の後、ホテルの玄関で握手をしていた。
「ねえ、響子。今の人達って、何話してたの?」咲奈が、目は玄関の方を向いたまま響子に話しかけた。
「うん、取引の契約みたい。今日の話をベースに契約書を作成して、摺り合せを来月にしようだって。」響子も視線は玄関のまま、答えた。
「へえ~、、私達って日本のビジネスの最前線に遭遇したんだね。」咲奈が響子の方へ向きなおし、見開いた目で同意を求めた。
「そうだねぇ。今の契約って年商がいくら位の話なんだろうね?ちょっと気になる~。」響子も話を膨らます。
「数億?数十億?、、、あの年配の男性の印象からして億単位の話に見えるね。」
そう咲奈が言った時、話題にしていた年配の男性と目が合った。
「……あっ、咲奈さん、、、向井さんじゃないですか。」と、その男性は驚いた表情の後、直ぐに満面の笑みを浮かべた。
咲奈の方へその男性は話しながら歩いて近づいてきた。
「どうも、ご無沙汰しています。お元気ですか?いや~、また会えないかなあ~っていつも思ってたんですよ。」
そう声を掛けられた咲奈、聞き覚えのある声と優しそうな顔。「あっ、小林さんっ。」咲奈も直ぐに思い出し、ソファーから立ち上がる。
「また、一段と可愛らしくなっちゃって、って言うか綺麗になられてますね。」咲奈のすぐ前に立った男性。丸の内で須藤と一緒に食事した小林だった。
「ご無沙汰しております。ウフっ、ありがとうございます。少しは垢抜けて見えますか?」と咲奈は、口を小さく閉じはにかむ様に挨拶を小林に返した。
「すっかり大人の女性ですよ。今日はどうされました?、、、お、これはまた一段とお美しい方とご一緒で、、、」響子に対し、小林の目が動かなくなった。
「はい。就職が決まったのでそのセミナーに参加していました。で一緒に来てくれたのが親友の響子です。」
「初めまして。北川響子です。咲奈とは同じ大学で、親友です。」響子も席を立ち、ペコリと挨拶。
「初めまして。小林と言います。薬品、薬剤、医療機器の総合商社をしてます。」胸の内ポケットから名刺入れを出すと、一枚を響子に手渡した。
「そう言えば、咲奈さんへもお渡ししておきます、あの時はプライベートだったんで、名刺が無くて。」もう一枚を咲奈へと渡す。
小林は軽いお辞儀と共に両手で手渡しを行った。
「ありがとうございます。すみません、私達、名刺がありません。」と咲奈が申し訳なさそうに言うと、
「あっははは、、当たり前です。名刺を出されたら驚きます。そういうお店の子かと思いますから、、、次回から指名料が必要だなって考えちゃいます。指名料は経費で落ちないよな?確か、、、森若さん、どうだったっけ?」
「それは経費で落ちません。当たり前です。……社長、私はこれで帰ります。お疲れ様でした。」小林の後ろにいた森若さんと呼ばれた女性が、真面目な顔で答えた。
「うん、ご苦労様でした。ごめんなさいね、今日はわざわざ休日出勤して貰っちゃって、今度、食事奢るから、、、」
「それは結構です。食事は辞退いたします。では、失礼いたします。」とお辞儀をして顔を上げた時、咲奈と響子の方を見て微笑を返し、踵を返し玄関へと歩いて行った。
「うわ~、バリバリのキャリアウーマンって感じ、、、憧れる~」「ねえ~、、、憧れるよねぇ、、、」咲奈と響子、その女性に見惚れる。
「ねえ、ちょっと一杯、どう?次の予定が無ければ、、」と小林が誘う。
咲奈と響子は顔を見合わせ、はにかむ笑顔を見合わせながら
「……ええ、実はこれから少し飲んで帰ろうかって話してたんです。」と咲奈が、誘いに応える。
「それは良かった。じゃ、行きましょう。」と咲奈に返した後、響子に向かい大きく頷いた。
「はい、お願いします。」と小林に答えた後、咲奈の顔を見て、頷く響子。
咲奈と響子は、先導するように歩く小林の後を付き従いそのホテルを出た。

それから10分程度歩いた別のホテル。ロビーからエレベーターへ乗り小林が28階のボタンを押す。最上階のフロアの様だ。
エレベーターから降りると、正面がガラス張りのラウンジ。右側に鉄板料理屋、左に和食処、またさらに奥には中華料理屋と思われる行灯が光っていた。
小林が正面のラウンジへと入る。フロアー係が歓迎の言葉と共に笑みを浮かべ、窓際の席へと案内してくれた。
「すっご~い、、、夜景がきれいだし、この店の雰囲気、、、、」と響子。
「ねえ~、、凄いよねぇ、このお店。小林さん、常連さんみたいね、、、」と咲奈。

「咲奈さん、響子さん。さっき、就職は決まったって言ってたけど何になるの?」運ばれてきたカクテルを軽く舐めるように口を付けた後、小林が聞いてきた。
「国家公務員です。私が農水省で、、、」「私が国土交通省です。」
「総合職?」
「いえ、一般職です。総合なんてとても、とても。」と咲奈。
「そう、良かったね、、、習った事は生かせそうかな?」
「どうでしょう?わかりません、、、ウフ」「入ってみないと、どんな仕事をするか分かりませんし、、、」咲奈と響子、笑いながら顔を見合わせ答える。
「そうだよね。それぞれの配属先で何をして欲しいか違うもんね。まあ~何にしても腐らずに頑張ってね。困った事があったら力になるよ。遠慮せずにどうぞ。」と小林、社交辞令。
「どうもありがとうございます。その時にはお願いします。……あの、、小林さん。お聞きしても良いですか?」と咲奈。
「んっ、何?、良いよ、何でもどうぞ。」
「心構えって言うか、社会人として、何に気を付ければ良いか、良ければ教えて頂ければ嬉しいんですけど、、、」
「心構えねぇ、、、そうだな、昔まだ、小さな会社だった頃に新入社員教育をした時の話をしようか。まあ、今でも人事部がそれを基にしたプログラムで教育してるけどね。」
「「是非、お願いします。」」咲奈と響子、同時に応えた。


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