双極の波が治まったワケ

過去10年は双極の波に飲まれて、毎日を過ごしていた。双極の波に溺れて苦しみ数年後、初めて精神科を訪れたのは約6年前だ。

現在の病院で治療を開始してから4年。治療を始めてから少しずつ、病気との向き合い方を覚えてきて、同時に自分に合う薬探しが始まった。1年前にエビリファイを服用し始めてから、体調が劇的に安定し、「薬が合うとは、こういうことか」と、自分でも驚いたのは今でも忘れられない。薬探しは終わり、服用を続けながらも「自分に合う」生活の仕方を工夫してきた。すると、どうだろう。

半年くらい前から、双極の波が来ない。

これは、自分にとって、エビリファイの効果を超える驚きだった。闘病中に苦しさのあまり、「本当に病状は落ち着くのか」「完治しないと聞くけど、どこまで良くなるのか」と不安でネットや本を調べまくった過去がある。その経験から、双極性障害の目指すべきところは「寛解」であり、それは「薬を飲みながら、安定した状態が維持できること」だということは知っていた。でも、さすがに「寛解」=「躁鬱の波が来なくなる」ことだとは想像すらできず、恐らく「躁鬱の波は来るけど、さざ波程度」に抑えられれば上出来なんだろうと信じていた。そこを目指してきたつもりだった。

薬を服用し続けることには変わりない。お薬が自分の足りない(もしくは多すぎる)脳内物質を上手にコントロールしてくれていると思っている。双極性障害は、「脳内物質のバランスが崩れること」で起きる病気だからだ。薬は必須だと今でも思っている。合う薬に出会えたからこそ、今の体調の「土台」が出来上がったとも感じている。

しかしながら、「お薬だけ」ではここまで安定するには至らなかったとも思っている。なぜなら、わたしには半年くらい前から始めた「あること」があったから。あきらかに、それがきっかけで躁鬱の波が治まった気がしている。エビリファイが劇的に効果を発揮したように、絶大な効果を発した事。それは、「日々の目標を激甘に設定すること」だ。特にポイントなのは、「自分のコンディションが悪くても、気軽にできるくらい」にまで、設定のレベルを下げること。

例えば、朝起きたときに自分の「今日のコンディション」を確認する。最悪のコンディションの時は、寝たきりをおすすめする。そういう時は、とにかく寝ること、身体を休めることが「仕事」だ。動いていい日というのは、最低でも「ちょっと疲れを感じているけど、動けそう」と感じた日だ。

自分のコンディションがなんとなく確認出来たら、次に大雑把なスケジュールを立てる。つまり「今日は何をするか」だ。やることは最大でも3つだけ。(例:仕事、買い物、洗濯の3つ)「多くても3つ」、これを死守することが体調の安定につながる。

やることを決める時、ポイントとなるのが「これは、自分の体調が悪くても、できる内容か」を考えること。「コンディションが悪い状態でも」できることを念頭に置く。これが本当に大事だと思っている。「がんばらないとできない」ことは、できるだけ「自分ではやらない」ことに決める。

例えば、役所に連絡をしないといけないとしよう。直接出向いて話をすることも可能だが、それだと私の場合「コンディションが悪い時」には、できそうもない。なので、電話で済まそうとする。電話なら、調子の悪い時でも、なんとかできることだからだ。そうすることで、自分へのプレッシャーが少なくなる。こういう小さな積み重ねを続けていくことで、毎日が劇的に楽になっていく。

しかし、生活していると大人なので、さすがに「どんなコンディションでも、やらなきゃいけないこと」が出てくる。どうしてもやらないといけない場合は、「人に代わってもらえることか」どうかを一瞬考える。代わってもらえる案件ならお願いして、代わって解決してもらおう。そうすることで、「やらなきゃ」というプレッシャーが一気になくなる。もし、どうしても自分がやらないといけない場合は、「その事だけをすればいい日」を作って、できるだけプレッシャーを少なくし、前後に休む時間を設ける。これが大事だ。自分をとことんケアするのである。

自分に「激甘」にしないと、双極性障害は安定しづらいかもしれない。

わたしはこのやり方を始めてからというもの、躁鬱の波から解放された日々を送っている。この状態は、わたしにとっては、「奇跡」そのものだ。6年前は食べ物の味もせず、寝たきりの日々を過ごし、かと思えば唐突に元気が出てきて、過活動になるというのを繰り返していた。良くなったかと思えば、数週間するとすぐに落ち、落ちたかと思えば、また浮上し、その繰り返しだった。ドイツ語でそのような状態を「悪魔のループ」と呼ぶが、まさしく悪魔に遊ばれてるような気分だった。

偶然見つけた、ひろゆきさんの本『ラクしてうまくいく生き方』に、こういう言葉が載っていた。「目標はとことん低くしときましょう」。これが目に留まった瞬間、「わたしと同じじゃないか」と思った。詳しく見てみると、ひろゆきさんは、仕事で執筆作業をする時に「1行書けば、ゲーム1時間していい」というルールを決めているらしい。そうやって「激甘」に目標設定をすることで、始めるハードルが下がる。すると、案外すぐに始められるようになるし、やってみると3行、4行、と進んでいき、気づいたら原稿が書き終わっていることがよくあるそうだ。

双極性障害あるあるだと思うのだが、この病気を患っている人の多くは、「頑張り屋さん」で「自分に厳しい」。自分に多大なるプレッシャーをかけることが普通になって、日常化している。でも、本人は、自分にプレッシャーをかけていることに気づいていないし、それが「多大」だとも感じていない人が大半な気がする。病気の原因があるとするなら、これかもしれないとわたしは感じている。

ツイッターを始めてから、たくさんの双極性障害の方々に出会ってきたが、振り返ると、共通点は「自分へのプレッシャーのかけ方がすごい」、「自分に厳しい」こと。だから、必然的に目標設定も高くなってしまう。日々の目標が高いと、取り組む気力も相当かかるし、取り組んで終わらないことや上手くいかないことが必然的に多くなる。すると、自信を無くす。これも「悪魔のループ」であり、悪循環だ。

双極性障害を抱えて生きるとき、最も大切なことのひとつは「自分を最大限にケアする」こと。目標を低く設定し、「できた」を増やす。すると、自信につながる。やる気が出てくる。やれる。やれた。その繰り返しをすることで、体調は安定に向かうと思っている。

わたしを日々観察してきた夫も、わたしの安定さに驚いている。そして、とうとう先日、「君ばっかり安定して、毎日楽しそうでずるい。僕も安定したい。やり方を教えてほしい」と言われた。夫も双極性障害2型なのだ。お願いされたので、ここに書いたことを中心に、多くの例えを用いて話し、説明した。するとどうだろう、夫が安定してきたのだ。今までで一番、楽しそうに生活している。またまた驚きがひとつ増えた。

ここに書いた方法が万人に通用するかは、わからない。しかし、少なくとも私自身と、そしてわたしの夫には効果があった。もし、あなたが双極性障害の気分の波に翻弄されていて、薬を飲んではいるけれど、いまいち落ち着かないという場合には、騙されたと思って、「激甘計画」を実行してみてはいかがだろうか。すぐには結果が出ないかもしれないが、わたしは1ヶ月で効果を感じたので、まぁ、短くても2~3週間は続けてみてほしい。躁鬱の波が静かになる日は、もうそこまで来ているかもしれない。これが回復への一助になれば幸いである。

(終)

☺長文失礼しました。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。





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