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映画感想文「WILL」東出昌大のあれからを描いた、非常に示唆に富んだドキュメンタリー映画

ひと言で表すなら無防備、これに尽きる。

数年前に世間を騒がせた不倫。その決定的な瞬間。妻と彼女とどちらを選ぶかと聞かれた時、彼は黙り込んだ。

「あー、やっちゃったな」人の目を気にして生きる凡人の私は慄いた。

しかし、あの時。一体どんな回答が正解だったんだろう。

妻と答えれば彼女が傷付き、彼女と答えれば妻が傷付く。なんと答えてもきっと、意味のないことであっただろう。

やがてメンタルをやられた彼は、山に籠った。狩猟免許を取得し、山で獣を狩り、暮らす。生きるために殺傷を繰り返す自給自足の暮らし。それを重ねてある種の諦觀を身につけていく。

しかし、悪意ある声から逃れた山でも、有名税がついて回った。居酒屋では東出昌大と写真を撮りたい人が列をなし、近所のガソリンスタンドでは馴染みのおばちゃんが悪気なく彼の住所をSNSで晒した。

それでも、そんなこんなも笑い飛ばした(笑うしかなかった、が、正確なところか)。

今度は、不倫を暴いた週刊誌の記者が彼を訪ねた。もちろん、その後の生活を面白おかしく書きたてるためだ。なんと彼は、そんな敵をなんの躊躇もなく、自宅に泊めた。

無防備すぎる。そして軽はずみすぎる。

でも、それが彼なのだ。

そして、それが彼の俳優としての強みでもある。彼が彼であることを、誰が責められようか。

ちなみに、私は自分の夫や恋人が浮気をしたらきっと許せない。でもそれを世間が裁くのは好みではない。当人たちの問題だ、放っておけばいいのにと思う。

それでも、それもその人たちの価値観なのである。(個人的に嫌悪感はあるが)誤ってると誰かが裁く話でもない。

印象的なシーンがある。彼と親しくなった週刊誌の記者が、彼を追い詰めた記事のことを悔いているかと問われ答えた。「私たちの仕事である」と。

そうなのだ。

誰しも自分の仕事をする。そして自分の価値観で生きる。

それにより打ちのめされたり傷付いたり歪みあったりしたとしても、それが社会である。

東出昌大のあれから、の物語。非常に示唆に富んだドキュメンタリー映画。多少冗長ではあるがとても骨太の作品だ。

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