映画感想文「ヴァル・キルマー 映画に人生を捧げた男」誰もがトム・クルーズにはなれない。優れたドキュメンタリー
誰もがトム・クルーズになれるわけじゃない。
それに対する、ひとつのアンサーである。
「トップガン」でマーベリック(トム・クルーズ)のライバル、アイスマンを演じた、ヴァル・キルマーのドキュメンタリー映画。
喉頭ガンで闘病していた彼は、化学療法と気管切開により、とうとうガンを克服。代わりに声を失った。
一昨年公開された「トップガンマーベリック」に、その状態を活かした闘病中の役柄で出演していたのも記憶に新しい。
幸いなことに、彼の人生は沢山の映像に残っていた。若くして俳優として成功してからはもちろんのこと、男三兄弟で自主映画を撮りあった幼い頃からのホームビデオが残っていたのだ。
俳優を目指したひとりの少年がハリウッドで成功。厳しい業界で自分を見失わないよう、悩み戦い試行錯誤して生き抜いてきた。そして、ある日突然病に倒れ、声を失う。その人生を現在まで繋ぎ合わせたストーリー。
華やかな成功の陰での苦々しい挫折。当然ながら、キャリアにも私生活にも浮き沈みがある。それらがプライベート映像とともに本人により語られる。
映像とは恐ろしいもので全てが映されてしまう。マイナスだったことも、淡々とそのまま、隠すでもなく、誇張するでもなく映っている。
そうした語り口により、ひとりの人間がいまここに至るまで、どうやって生きてきたのかを、リアルにみせることに成功している。
過去の栄光のおこぼれで飯を食ってるのではないかと落ち込む。という下り。
胸が痛む。
若い頃の彼は血気盛んな美しい青年だ。期待され、様々なチャンスに恵まれていた。活かせたものもあるし、うまく活かせなかったものもある。
そして、いま。
面影はあるものの、64歳の彼はだいぶくたびれている。流れた時が皺となってその顔に深く刻まれている。
でもこれが現実だ。
誰もが老いる。そして病にも罹るのだ。そんな中でどんな風に生きていくか。それが大切だ。
こんな風にさらけ出すことは、ある意味俳優の宿命なのかもしれない。
地味ながら素晴らしいドキュメンタリーであった。
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