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⑪「単刀直入」の刀はどんなものをイメージしてる?英語とスペイン語ではなんという?

【3分で学ぶ教養講座】3つの言語でことわざや慣用句を比較することで、世界で通用する教養を身につけるという連載の第11回目です。(目標は20回まで続けることなので、残りはあと9回。)

今回は「単刀直入」についてです。日本の文化に根付いた刀ですが、言語が変われば、これに相当する意味の表現はどう変わるのでしょう?

では、さっそく検証してみましょう。

「単刀直入」の意味

遠回しでなく前置きなしに、いきなり本題に入り要点をつくさま。一本の刀を持ち、ただ一人で敵陣に切り込む意から。

「単刀直入にお願いします。」という言葉は、首相官邸の記者会見で、記者の質問が長い時など、耳にしますよね。笑

「恐れ入りますが」×「単刀直入にお願いします。」というように、上手に敬語を混ぜることで、目上の人や外部の人にも問題なく使えるスーパーワードです。丁寧な物腰で言っても、結構強気な印象を与えます。「おまえはくどいぞ!」と心の中で思っているのが透けて見えるようです。

それもそのはず、この言葉が生まれた背景には、強気の姿勢がありました。それは、刀ひとつで、ひとり相手に立ち向かってゆくという勇ましいアクションです。そこから、転じての、「手短に本題に入る」という意味なのです。

どんな刀だったのか?

手にしていた刀は、短刀ではありません!(単独の単ですからね!)

では、いわゆる侍の日本刀なのでしょうか???


ブーーー!(不正解の音)

残念!これは、中国発祥の言葉です。まぁ、四字熟語になっている時点で、大陸の風が吹いていますよね。

それに気付くべきだったのに、日本刀だと思ったあなたは言語感覚が甘い!
短刀だと思っていた人は、問題外!(笑)

では、こういった中国の刀でしょうか?

おしい!

少し違います。なぜなら、映画「ブレイド・マスター」は明朝末期を舞台としているので、1600年台の話。

この四字熟語はもっと古いものです。

語源とされるのは、『景徳傳燈録』(けいとくでんとうろく)です。これは、中国・北宋代に道原によって編纂された、禅宗を代表する書物です。北宋は960~1127年なので、その時代の刀を見る必要があります。(『景徳傳燈録』が天下に流布するようになったのは、1011年以降。日本はまだ、平安時代ですね。)

この時代を舞台としたものは何があるでしょう?

そう、水滸伝(すいこでん)です!
水滸伝を知らないとは言わせません。名前くらいは聞いたことあるでしょう!これは、実話ではないですが、それっぽい逸話をもとにした大昔のフィクション大作です。

時代は北宋末期、汚職官吏や不正がはびこる世の中。様々な事情で世間からはじき出された好漢(英雄)百八人が、大小の戦いを経て梁山泊と呼ばれる自然の要塞に集結。彼らはやがて、悪徳官吏を打倒し、国を救うことを目指すようになる。
引用:wikipedia

では、こちらの予告編でこの時代の風を感じてみましょう。

この2分の劇場版水滸伝の予告編だけで、「単刀直入」の時代の世界観をぐっと身近に感じることができたのでは?

持っていた武器に注目していましたか?
どんな刀かよく見ましたか?

大きな敵に立ち向かうときに、ひとりで乗り込むのは無謀です。でも、その一挙から、状況が変わることもあります。そんな、時代に生まれた言葉なのだと体感すると、この四字熟語の味わいが変わりませんか?(水滸伝に由来する表現ではなく、単に時代背景が同じというだけです。)

「単刀直入」の言葉には、上の立場のものに、臆することなく切り込むような清々しさがあるのは、こんな背景があるからこそという気がしてきませんか?

英語で相当する意味の表現は?

Cut to the chase.
(追跡シーンに入る。)

その意味するところは、重要な部分について話したり、対処することを優先し、重要でないことに時間を無駄に割かないこと。

chaseとはカーチェイスのチェイスです。あの、アクション映画でお決まりの、車での迫力満点の追跡シーンは、chase sequence(追跡シーン)と呼ばれています。

追跡・・・?
「本題に入る」
という意味と何の関係が?

大ありです!

このイディオムが生まれた背景は20世紀初頭のアメリカの映画にあります。娯楽映画のアクションの見どころはハラハラドキドキの追跡シーンです。

その頃は、無声映画だったので、会話シーンは伝わりにくく、アクションシーンに人々は喜びました。なので、当時の映画関係者は客の好みに合わせてストーリーの流れをカットしてまでも、早く追跡シーンにいくようにしました。そこから、始まった表現だったのです。(業界用語?!)

つまり、追跡シーン=本題。

当時の追跡シーンは馬車でしたが、今でもその流れは変わってませんよね。車でも宇宙船でも、いつでも追跡シーンがアクション映画では必須です。脈絡のないアクションシーンの連続も娯楽映画では、あるあるですよね。

英語表現で、「本題に入る」と表現する"Cut to the chase"を使うときに、頭に浮かべる情景があるとすると、こんな感じ?

スペイン語で相当する意味の表現は?

Ir al grano.
(穀粒に行け。)

その意味するところは、詳細にこだわらず、主要なことに対処すること。

穀粒・・・?
小麦の粒だとこんなんですけど。

粒だけ見ていても、よく分かりませんが、もともとこの表現はもう少し長くて、“Déjate de paja y ve al grano” (藁は置いといて、穀粒にいって)というものでした。

この表現の由来は、穀物の脱穀です。脱穀して、長期保存できる状態にする必要があるのですが、大切なのは、実の部分。つまり、粒。藁や草はどうでもよいのです。

そこから、穀粒が大事な部分=本題という穀粒表現が生まれました。

なんだか、牧歌的な雰囲気ですね。なんとなく、のろのろした作業をイメージしちゃいます。「もぉぉおーー!!!、その藁はいいから、ちゃっちゃっと次の麦のもみを取ってよ!」と、イライラしている人が言った表現が転じて、「さっさと本題に入る」になった感じ!?

そう思うと、同じ「手短に本題に入る」という表現でも、言語によって雰囲気が若干違いますね。

日本語表現は、中国由来の刀表現で、結構迫力ある切り込みです。英語表現は、娯楽大国アメリカの「目玉シーンに行こうぜ!」というノリ。スペイン語表現は、のんびり農作業・・・?!

3つの言語を比較することで分かる、どうでもいい違いを知ることって、無駄の極みとも言え、逆になんだか贅沢🍸

やっぱり、ことわざは面白い!

以上、トリリンガル的思考での表現考察でした。

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