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【小説】恋の幻想

裕子さんの寂しさが私は解る、そう思っていた、良平さんも同じだと思うけど、近い筈の家族の距離が遠いのは辛い。

私はそんな家族の中に居て、自分を搾取されていた、その中に居ると気付かないけど、外に出るとそれを理解する。

遠い場所に住んでいるのならまだしも、近くに住んでいても気持ちが通わないのはもっと辛くなる。

抱えた気持ちは行きようも無くて、自分の周りに霧の様に浮かんでいるんだろうな。

裕子さんはそれで良平に救いを求めていたんだ、此処しか自分に居場所が無いと思っていたんだろう。

そこに私が来た、良平と一緒に住むという。結婚するという、耐えられない気持ちが離れ無いんだろう。

「裕子さん私ね、家族と居た時には、良平さんと結婚するなんて夢にも思わなかった、それどころかどんな風に生活して、どんな風に年を取るのか不安だった、でもね数年経って今を見て見ると、その頃には考えられなかった風になっている、だから裕子さんも見つけるよ、自分を思ってくれて、自分も好きに為れる人。」解って貰えるかは解らないけど、顔を見てゆっくり伝えてみる。

裕子さんが微笑んでいる、投げやりでは無い笑顔がそこに在った、人間はみんな繋がっているんだよ、そんな感じで見ている。

「ありがとう、忍ちゃんはいつも私にして貰ってばっかりだって言うけど、そんな事ないよ、だって私が助けて貰ったんだもん。」と裕子さんが答えてくれる。

「?」私には何を言ってるのか解っていない、私には何の力も無いし助ける訳がない。

裕子さんから良平を取り上げてしまったんだから、そんな訳ないのになぜだろう。

「忍には解らないよな俺には解るけどな、子供ってさ自分では何にもできないって思っているけど、その存在が救ってくれるんだよな。」良平が知ってるとばかりに言ってくる。

「私は子供じゃ無かったですヨ、初めて会った時でも。」納得いかない気持ちが顔に出ているだろう。

「忍が子供だって言ってるんじゃ無いんだ、例えなんだよ例え、子供って何もしなくても教えてくれるだろ大人に。」続ける。

たぶん私は頬を膨らませていたんだろう、裕子さんがちょっと笑いながら話し出す。

「忍ちゃんが私を頼ってくれて、一緒に泣いたり笑ったりしてくれると、自分の家族が出来たみたいな気がしていたんだ、だってそうでしょ、笑ったり怒ったり泣いたりを見せても良いのが家族なんだよ、それが今まで良平にしかできなかったからね。」満足そうに裕子さんが言う。


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