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自営業の人間も「お店の後」の人生を考えたっていいのでは

今月の下旬からお店を休業することにした。というのも、私の人生における「魚屋の後」の準備のため。自営業、とりわけ家族経営に毛が生えた程度の規模でやっている小さなお店だから決断できたことで、社長特権を行使させてもらった形だ。考える時間、が今どうしても必要だった。


自営業の人やお店をやっている人って、「このお店を一生やっていくんだろう」「これを一生の仕事にすると覚悟を決めてやっているのだろう」と周囲から認識されることが多いのではないだろうか。このあたりが世に存在する企業に就職して純粋に転職の可能性を残している人たちと見られ方が違うのは、肌感覚でも理解の易しいところだ。私も恐らく周囲からはそう見られていて、地方の魚屋の3代目を継いで3年半、「腰を据えて頑張れ」「よく覚悟決めたね!」なんて言われてきたのだけど、そう言ってくる人の多くは、地方にUターンしてから知り合った人ばかり。私をよく知る人たちは、私が魚屋を一生の仕事になんてできないことに、当の私よりも早く気がついていた。東京時代なんでも話を聞いてくれた院時代の先生は「他にやりたいこと見つかったら早いとこやめるんだよ」って送り出してくれたし、気心の知れた友人たちも同じように口を揃える。お店を継いだ当初は、そんなわけないでしょ、せっかく東京から帰ってきてんのに…なんて思っていた私だが、どうやら彼らが正しかったらしい。私は今では魚屋以外にも「やりたいこと」がある人生も素晴らしいという考えに至っている。

もちろん何かやりたいことを見つけたとして、それを自営業と同じく一生続けていけるのか、一生続けていきたいのか、を問うたところで、絶対的な答えを求めるべきではない。続けることへの強迫観念に自営業者が縛られるべきではないと考えるからだ。

自営業の人間が既存の事業の延長や会社の新規事業として新しいことを始めるのは褒められる話だが、事業や会社の外で、または現在の事業を閉めてまで別の世界で何かをしようとすることは、多くの場合歓迎されない。私は基本的に正直なので「魚屋を一生やろうなんては思ってないんですよね、」的なことを会話の中でさらっと言ったりしてきたのだけど、その度に近所の同業さんや、異業種にしても地元でノリにノッている会社の社長たちが、「始めたことは最後までやらなきゃ」「続けていたらいいことあるよ」と励ましてくれた。本当にありがたいお声がけで、若くして自営業やってると温かい言葉をもらえることも多いのだが、その励ましには恐らく「続けることが善」「辞めることが悪」という意味合いも含まれていることにずっと居心地の悪さを感じていた。続けることに疑問がない人や、好きで続けていきたい人、他の何よりも今の商売で一生仕事をしていきたいと思っている人にとって、その世界から出ていこうとする人間は、未確認生命体なみに不思議な生き物に見えているらしい。


そう見られることを理解してからは、「この仕事も大切にしているけど本当は違うこともやりたい」とか「今はこういう方面に興味があるんですよね」という話を人にできなくなっていった。けど、どんな商売もいつかは自主的に閉じることになる。それがどのタイミングであろうと、自分の代であろうと、誰かに引き継いだ後であろうと、その時はいつかやってくるわけで、そのタイミングを自ら作り出すことが悪であるという刷り込みは、捨てるべきではないか。
自営の人間も、事業を始めた場所やその事実に縛られることなく、その後の人生を考えることを肯定的に捉えていく風潮がもっとあってもよいのではないか。そうすれば、「事業を閉じること=失敗、再起不能」と見られたり、プラスの状態での閉業が勝手に「倒産」と言われるような、起業を躊躇するような要因も薄くしていけるのではないかなどとも思っている。

などという人様や社会の心配は置いておいても、ただ私自身のために、「商売のために挑戦を諦めた」という過去を作らないために、今3か月の店舗休業をいただいて、今の仕事以外の「やりたいこと」についてちゃんと調べる時間や一歩踏み出してみるための準備の時間をもらうことにした。といっても朝は卸の仕事があるので5:00~10:30くらいの時間では仕事なのだが。

お店休んでまで?休まずにできないの?なんて言われることもありそうだが、お店の運営に関わる時間の外で片手間でやっていると、また繁忙期が来てすべてを忘れて働き、時間ができたと思えば大して思考を巡らせる余裕のないままにまた繁忙期が来る。そうして過ごしているうちに、「もうここで一生この仕事をしていけばいいや…」となるのだろう。それでいいのであれば、わざわざ休業はしない。

自営の人間が今の商売の他にやりたいことを見つけた時、罪悪感みたいなものが湧くことはないだろうか。私は今すぐにお店を閉じるわけではないし、あと数年今のお店を続けながらの生活になるとは思うが、それでも今の仕事をするにあたりお世話になっている人や応援してくれる人の顔を思い浮かべて罪悪感を感じることはあった。それに人からの視線を気にして「人の商売を継いで途中で辞めた人間」「中途半端な人間」と思われることへの抵抗感もあった。しかし、自営の人間も、商売以外にやりたいことを見つけた自分を責めずに生きていけたら、今の場所に自分を縛り付けずに前に進めたら、とこの頃は割と本気で考えている。

自営を終えることや、誰かに渡して自らが商売から離れること、そしてその後の人生というものを考えることに、もっとポジティブなイメージを持って、お店をやっていきたい気持ちだ。

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