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【万葉集】朝床に(巻十九・四一五〇 大伴家持)

朝床に聞けば遥けし射水川
朝こぎしつつ唱(うた)ふ船人
(巻十九・四一五〇 大伴家持)

【解釈】

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春の朝が心地よくて、いつまでも寝床でうとうとしている。
朝早くから仕事をする船人たちの歌う舟唄が、遠く射水川からかすかに聞こえてくる。

今朝の札幌は、雪こそ降っていないけれど気温はマイナス6℃。
あたたかい春の寝床が恋しい日々が続きます。こんな歌を目にすると、とにかくうらやましい。

この歌の作者は大伴家持。役人として現在の富山県に赴任していた時に詠まれた歌です。
家持は31歳から約5年間、単身で越中国守として富山に暮らしていました。

詞書には「遥に江を泝(さかのぼ)る船人の唱(うた)を聞く歌一首」とあります。この歌の次におさめられているのは、曲水の宴の席で詠まれたという歌。一連の春の情景が美しく、心地よいシリーズです。

季節は旧暦の3月初旬、暁を覚えない春眠。寝床でまどろんでいると、聞こえてくるのは朝早くから川を行き交う船人たちが歌う舟唄。

奈良の都とは違う、越中の地です。どこか異国情緒があって、漢詩のような趣があります。蘇州あたりの運河の情景でも良さそう。

一人寝のさびしさをかき立てる舟唄、という解釈もあるようですが、個人的にはあまりさびしい印象は感じません。
どちらかというとほんの少しのけだるさの中で、気持ちよさそうにまどろんでいる印象です。

「朝床」を気ままな一人寝と見るか、愛しい人と一夜を過ごした翌朝と見るのかでも、印象は大きく変わってくるかもしれません。

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