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過労死ライン(脳・心臓疾患の労災認定の基準)見直し案

脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会

本日(6月22日)、厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会」が労働委員会会館講堂にて開催。議題は「脳・心臓疾患の労災認定の基準について」。

つまり(いわゆる)過労死ラインについて協議されるが、厚生労働省より資料として「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会報告書(案)」が厚生労働省公式サイトで公開されている。

脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会報告書(案)

脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会報告書(案)には「検討会開催の背景等」が記載されている。

検討会開催の背景等
業務による過重負荷を原因とする脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。以下「脳・心臓疾患」という。)については、労働者災害補償保険制度の下、平成13年12月に改正した「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準」に基づき労災認定を行ってきたところであるが、認定基準の改正から約20年が経過する中で、働き方の多様化や職場環境の変化が生じていることから、最新の医学的知見を踏まえた検証を行う必要がある。

このため、本検討会は、厚生労働省の依頼により、最新の医学的知見に基づき、医学、疫学、予防医学・労働衛生学及び法律学等の専門的見地から認定基準について検討を行った。

脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会報告書(案)「まとめ」には「『短期間の過重業務』及び『長期間の過重業務』において、業務による負荷要因としては、労働時間のほか、勤務時間の不規則性(拘束時間の長い勤務、休日のない連続勤務、勤務間インターバルが短い勤務、不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務)、事業場外における移動を伴う業務(出張の多い業務、その他の事業場外における移動を伴う業務)、心理的負荷を伴う業務、身体的負荷を伴う業務及び作業環境(温度環境、騒音)の各要因について検討し、総合的に評価することが適切である」と記載されている。

さらに「労働時間のみで業務と発症との関連性が強いと認められる水準には至らないがこれに近い時間外労働が認められ、これに加えて一定の労働時間以外の負荷が認められるときには、業務と発症との関連性が強いと評価できる」とも記載されている。

脳・心臓疾患の労災認定の基準(過労死ライン)見直し案を読み、20年前、社会保険路労務士をしていた時から疑問に思っていたことが、ようやく解決するかもしれない。

脳・心臓疾患労災認定基準(過労死ライン)は,長時間の数字(時間外労働時間)ばかりで判断して、例えば、変形労働時間制での極端な不規則勤務を発症要因として考慮しなかった。

まとめ
脳・心臓疾患は、その発症の基礎となる血管病変等が、主に加齢、食生活、生活環境等の日常生活による諸要因や遺伝等の個人に内在する要因により長い年月の生活の営みの中で徐々に形成、進行及び増悪するといった経過をたどり発症するものであり、労働者に限らず、一般の人々の間にも普遍的に数多く発症する疾患である。

しかしながら、業務による過重な負荷が加わることにより、血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ、脳・心臓疾患を発症させる場合があることは医学的に広く認知されているところであり、現行認定基準においては、脳・心臓疾患の発症に近接した時期における負荷のほか、長期間にわたる業務による疲労の蓄積を業務による過重負荷として評価している。

当専門検討会では、これらを踏まえ、業務による負荷要因と脳・心臓疾患の発症との関係についての最新の医学的知見や、個別の支給決定事例、現行認定基準策定以後の裁判例等を検討し、次のような結論に達した。

1 脳・心臓疾患の対象疾病として「重篤な心不全」を追加するとともに、解離性大動脈瘤については「大動脈解離」に表記を改めることが適当である。

2 脳・心臓疾患の発症に近接した時期における負荷のほか、長期間にわたる業務による疲労の蓄積が脳・心臓疾患の発症に影響を及ぼすとする考え方は、現在の医学的知見に照らし是認できるものであり、この考え方に沿って策定された現行認定基準は、妥当性を持つ。

3 過重負荷の評価の基準となる労働者としては、引き続き、本人ではなく、同種労働者にとって、特に過重な業務であるかを判断の基準とすることが妥当であり、ここでいう同種労働者とは、「当該労働者と職種、職場における立場や職責、年齢、経験等が類似する者をいい、基礎疾患を有していたとしても日常業務を支障なく遂行できるものを含む」とすることが適切である。

4 発症に近接した時期における業務による負荷については、現行認定基準のとおり、「異常な出来事」及び「短期間の過重業務」を評価することとし、「異常な出来事」の具体的な内容についてより適切な表現に修正するとともに、「異常な出来事」及び「短期間の過重業務」について、その検討の視点や、業務と発症との関連性が強いと評価できる場合の例示を認定基準上明らかにすることにより、明確化、具体化を図ることが適切である。

5 「短期間の過重業務」及び「長期間の過重業務」において、業務による負荷要因としては、労働時間のほか、勤務時間の不規則性(拘束時間の長い勤務、休日のない連続勤務、勤務間インターバルが短い勤務、不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務)、事業場外における移動を伴う業務(出張の多い業務、その他の事業場外における移動を伴う業務)、心理的負荷を伴う業務、身体的負荷を伴う業務及び作業環境(温度環境、騒音)の各要因について検討し、総合的に評価することが適切である。

6 長期間の過重業務の判断において、疲労の蓄積の最も重要な要因である労働時間に着目すると、①発症前1か月間に特に著しいと認められる長時間労働(おおむね100時間を超える時間外労働)に継続して従事した場合、②発症前2か月間ないし6か月間にわたって、著しいと認められる長時間労働(1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働)に継続して従事した場合には、業務と発症との関連性が強いと判断される。

7 また、発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合には、業務と発症との関連性が弱く、1か月当たりおおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると判断される。

8 さらに、労働時間のみで業務と発症との関連性が強いと認められる水準には至らないがこれに近い時間外労働が認められ、これに加えて一定の労働時間以外の負荷が認められるときには、業務と発症との関連性が強いと評価できる。

9  脳・心臓疾患の発症には、高血圧、脂質異常症、喫煙等の危険因子が関与し、多重の危険因子を有する者は、発症のリスクが高いことから、労働者の健康状態を把握して基礎疾患等の程度や業務の過重性を十分検討し、これらと当該労働者に発症した脳・心臓疾患との関連性について総合的に判断する必要がある。

以上の諸点は、現在の医学的知見に照らし、妥当と判断されるものであるが、今後の医学の進歩により再検討を要するものであることに留意する必要がある。

なお、当専門検討会では、本報告書をまとめるに当たって、各負荷要因等の検討の視点等の明確化、具体化を図ることによって、業務の過重性の評価が迅速、適正に行えるよう配慮した。

労災保険制度は、不幸にして、業務上の事由により被災した労働者やその遺族に対し、保険給付を行うものであるが、人の生命はかけがえのないものであり、過労死等は、本来あってはならないものである。過労死等の防止のために、行政当局は、長時間労働の削減に向けた取組の徹底や、過重労働による健康障害の防止対策、国民に対する啓発活動等を進める必要があろう。

また、事業主は国等が行う過労死等の防止のための対策に協力するよう努め、事業主・労働者は協力して、健康診断の受診率の向上、その事後措置の徹底、健康保持増進や快適職場の形成などを図っていく決意と努力が必要であろう。

そして、労働者自身は健康で明るい生活を営むための具体的な自助努力が必要であることを認識し、生活習慣病の減少・克服を目指し、その一次予防(健康な生活習慣を自ら確立する)、二次予防(早期発見、早期治療)並びに三次予防(治療、機能回復、機能維持、再発防止)に努める必要がある。

これらの行政当局、事業主及び労働者のそれぞれの取組により、過労死等が減少、消滅することを期待したい。

脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会報告書(案)(PDFファイル)

日本経済新聞『「過労死ライン」柔軟適用』

日本経済新聞デジタル版(『「過労死ライン」柔軟適用 厚労省方針、残業の評価法見直し』2021年6月22日午前2時配信)は「厚生労働省は脳・心臓疾患の労災認定の評価法を見直す方針だ。残業が『過労死ライン』といわれる月80時間に達しなくても、それに近い残業や労働時間以外の負荷があれば、業務関連性が強いと評価する。時間の目安を硬直的に適用するケースがあり、労働基準監督署に柔軟な対応を促す」と報じた。

NHK『「過労死ライン」 20年ぶりに見直しへ認定基準案示す 厚労省』

NHK NEWS WEBは「厚生労働省が設置した有識者の検討会は、過労死の認定基準についておよそ20年ぶりに、見直しに向けた検討を進め、(6月)22日にその案を示しました」と報じた。

そして「厚生労働省の検討会は、22日に示した案をもとに提言をまとめることにしていて、これを受けて厚生労働省は過労死の認定基準を見直すことにしています」と。

厚生労働省が設置した有識者の検討会は、過労死の認定基準についておよそ20年ぶりに、見直しに向けた検討を進め、22日にその案を示しました。

それによりますと、残業時間の長さが「過労死ライン」に達しない場合でも、それに近い残業があり、不規則な勤務などが認められれば「仕事と病気の発症との関連性が強いと評価できる」として、労災と認定すべきだとしています。

不規則な勤務については、具体的に、
▽仕事の終了から次の開始までの「勤務間インターバル」が短い場合や、
▽休日のない連続勤務などを示しています。

「過労死ライン」については、遺族や弁護士からは、WHO=世界保健機関などの指摘を踏まえ1か月65時間に見直すべきだという意見が出ていましたが、現在の基準を引き続き示すことが妥当だとしています。

厚生労働省の検討会は、22日に示した案をもとに提言をまとめることにしていて、これを受けて厚生労働省は過労死の認定基準を見直すことにしています。(NHK NEWS WEB『「過労死ライン」 20年ぶりに見直しへ認定基準案示す 厚労省』2021年6月22日11時47分配信)