裁量労働制 拡大(厚生労働省の検討会報告書と労働政策審議会分科会報告比較)
厚生労働省は2022年7月15日、厚生労働省の有識者会議「これからの労働時間制度に関する検討会」がとりまとめたこれからの労働時間制度に関する検討会報告書を公表。この報告書に基づいて厚生労働大臣諮問機関・労働政策審議会労働条件分科会が裁量労働制の対象業務追加(拡大)などに関する議論を始めたが、その議論の結果、労働政策審議会労働条件分科会がとりまとめた労働政策審議会労働条件分科会報告「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)」を厚生労働省が昨年(2022年)12月27日に公表。これら公表された文書のうち裁量労働制対象業務に関する記述を比較した。
裁量労働制 対象業務に関する報告書と報告の記述
これからの労働時間制度に関する検討会報告書(以下「検討会報告書」)では対象業務については、次のように記載されていた。
労働政策審議会労働条件分科会報告「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)」(以下「労働政策審議会分科会報告」)では、次のように記載。
現行の裁量労働制対象業務の明確化
裁量労働制の対象業務の明確化に関しては、検討会報告書では「まずは現行制度の下で制度の趣旨に沿った対応が可能か否かを検証の上」と書かれていた箇所があったが、労働政策審議会分科会報告では削除されている。
また、検討会報告書には「可能であれば、企画型や専門型の現行の対象業務の明確化等による対応を検討し」と記載されていたが、労働政策審議会分科会報告には「企画業務型裁量労働制(以下「企画型」という。)や専門業務型裁量労働制(以下「専門型」という。)の現行の対象業務の明確化を行うことが適当である」と記載。
検討会報告書の「可能であれば」という曖昧な表現は消され、労働条件分科会の労働者側委員が強く求めていた、現行の裁量労働制対象業務の明確化を強調した。
今後の裁量労働制対象業務の追加(拡大)
次に、労働条件分科会で最も労使で争われた、今後の裁量労働制対象業務の追加(労働者側委員は「裁量労働制の拡大」と呼ぶ)に関しては、検討会報告書では「対象業務の範囲については、前述したような経済社会の変化や、それに伴う働き方に対する労使のニーズの変化等も踏まえて、その必要に応じて検討することが適当」として具体的な記述はされていなかったが、労働政策審議会分科会報告では「銀行又は証券会社において、顧客に対し、合併、買収等に関する考案及び助言をする業務について専門型の対象とすることが適当である」と記載され、専門型裁量労働制への新しい対象業務の追加が示された。
第179回 労働政策審議会労働条件分科会(2022年9月27日開催)において、使用者側委員は「平成29年、本分科会で示されました働き方改革関連法案の要綱に企画業務型裁量労働制の対象業務への追加と記されました課題解決型開発提案業務と裁量的にPDCAサイクルを回す業務の2つの必要性はむしろ高まってきていると考えております」と発言していたが、企画型裁量労働制への課題解決型開発提案業務と裁量的にPDCAサイクルを回す業務の追加(拡大)については、今回は見送られたことになる。
合併、買収等に関する考案及び助言をする業務
また、第179回 労働政策審議会労働条件分科会(2022年9月27日開催)において、使用者側委員は「金融機関において、顧客に対し、資金調達方法や合併、吸収、買収等に関する考案及び助言を行う業務は極めて専門性が高く、労働時間とその成果が比例しない性質のものであり、まさに裁量労働制の対象にふさわしいものと考えております。こうした業務に就かれる方の年収水準は高く、満足度も高いと考えられますが、我が国の賞与決定の方法が、個別企業労使で都度決定をする、あるいは変動部分の報酬も高いということもありますので、例えば高度プロフェッショナル制度などの要件を常にクリアすることが難しい場合もあり、高プロを選択できない場合も少なくないと思っています。こうした状況を踏まえますと、金融機関において、資金調達方法や、合併・買収等に関する考案及び助言をする業務に従事する方の能力発揮を促して働きやすい環境を整えるには、裁量労働制の対象への追加が適当ではないか」と発言していた。
この使用者側発言を受けて厚生労働省は、(2022年11月8日に開催された労働政策審議会・労働条件分科会の資料2-2「ヒアリング結果の概要」によると)金融機関における「合併、買収等に関する考案及び助言をする業務(いわゆるM&Aアドバイザー業務)」と「資金調達方法を考案する業務」に関する企業および関係団体ヒアリングを労働政策審議会分科会以外の場所で厚生労働省が実施。
ヒアリングでは「合併、買収等に関する考案及び助言をする業務(いわゆるM&Aアドバイザー業務)」と「資金調達方法を考案する業務」について実施されたが、「資金調達方法を考案する業務」の専門型裁量労働制の追加が見送られている。多分、「資金調達方法を考案する業務」の専門性が使用者側委員が主張するほど高くないと判断されたものと思う。
なお、第179回 労働政策審議会労働条件分科会(2022年9月27日開催)における使用者側委員の発言に対して労働者側委員は「今、〇〇委員(使用者側委員)は資金調達の例を出されました。そこで働く人たちは高額な報酬ではあるものの、高度プロフェッショナル制度の年収要件までには達しないから、企画業務型裁量労働制の拡大が必要という発言のように聞こえました。高度プロフェッショナル制度を作るときにおいても議論されたところですが、制度の求める年収要件や様々な要件において合わないからといって、それを裁量労働制の拡大に結びつけることは労働時間法制のロジックから外れていると認識しておりますので、意見として申し上げておきたい」とも発言している。この労働者側委員発言は、今後の裁量労働拡大などの国会審議においても参考にすべき重要な指摘だと思う。
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