【小説】珀色の夢 9
山の入り口が、大口を開けて紗絵を待っていた。喉の奥には濃緑が鬱蒼としている。砂利の舌は早く乗れと言うように彼女の足先まで伸びていた。
長く歩いた足を休ませるのと、恐怖を紛らわす為の時間稼ぎの名目で、紗絵はその場に長いこと立ち尽くしている。
この先への当てなど全く無かった。イズミがいるのか、何事も無く終わるのか、あるいはもっと恐ろしい何かがいるのか。
今ならまだ引き返せると、心の何処かが囁いていた。
彼に正体を明かされてから大分時間が経っている。紗絵を食べる準備が整っていてもおかしくはなかった。もしかしたら、既に食べられてしまっているのかもしれない。
もしそうだとしたら、かえって都合が良かった。逃げ道を断たれたら進むしかない。
寂しがっている人を放っておく事は、紗絵にはもう出来なかった。
寂しいという事がどれだけ辛い事か、寂しがっているだろうその人に教えられた。
彼に会いたい。そばにいてあげたい。
恐怖を遂に捨て去って、紗絵は緑の口の中へ飛び込もうと足を踏み出した。
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