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実話怪談(人怖) 第二十二話 「封印された部室の話」

⚠️警告⚠️
こちらの怪談はこの夏に怪談の動画コンテストに応募した際に書いた原作です。
動画では幾分かマイルドになっておりますが、原作は二割り増しでエグくなっております。
覚悟の上でご拝読ください。

動画も合わせて楽しんでいただけたら嬉しいです。
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朝倉さんが通っていた高校には吹奏楽部が使っていたという「開かずの部室」があった。

なんでもその部室で自ら命を絶った女子生徒がおり、その血の跡が何度消しても消えないので「開かずの部室」になったと噂に聞いた。
怪談話が大好きだった朝倉さんは吹奏楽部の顧問である岩沢先生と仲良くなり何度もそのことについて聞き出そうとしたという。
最初こそ渋られていたが、結果として根負けした先生に件の部室を見せてもらうことになった。

「なにを見ても後悔するなよ。あと、誰にも言うな」

部室のある体育館の半地下で落ち合い、岩沢先生から開口一番に釘を刺された。
「開かずの部室」とは言っても鍵は現存するようで、話によれば吹奏楽部の顧問が学校からの指示で内密に管理をまかされているとのことだった。
なぜそんな面倒なことをするのかと聞いても先生は口を閉ざした。

そしてついに「開かずの部室」が開けられた。

カビと埃の臭いに混じってむせかえるような鉄の錆びた臭いがしたという。
部屋の中を見て想像以上の状況に言葉を失った。
床に残る血だまりの跡、そのすぐそばの壁には飛び散った夥しい血の跡。

なぜそのままにしてあるのかという質問に対して、「何度壁と床を張り替えても浮き出してくるんだよ」と言った。
亡くなったのは当時二年生の吹奏楽部の女子生徒で手首を切っても死にきれず、同じカッターナイフで自らの頸動脈を掻っ切ったらしいと岩沢先生は続けた。
想像を絶する光景に絶句していると、おもむろに岩沢先生がキャスター付きの棚をどけた。

そこには血の文字で

「○○呪ってやる」

と名指しで書かれていた。

おそらく手首から流れた血で首を切る前に書いたものだと思われ、その光景から女子生徒の壮絶な最期が容易に想像できた。
「ここに入ったこと絶対に誰にも言うなよ」と岩沢先生から再び念を押され、朝倉さんは黙って頷くのが精一杯だったそうだ。

それから数か月後夏休みに入ってすぐのことだった。
岩沢先生が生徒へわいせつ行為をはたらいたとして懲戒免職処分になった。
生徒からの信頼も厚かった先生だったので、学校中に波紋が広がったというのだが、なんとなく朝倉さんは「あの部室を見せたから口封じで消されたのではないか?」と思った。
というのもその後に起こったある出来事が原因だった。

夏休み明け、まだ岩沢先生の事件の余波が残る中どういうわけか野球部の顧問で体育教師の濱田から体育館裏に呼び出されたことがあった。
その際に「テメェなにかコソコソかぎ回っているらしいな」と睨みつけられた。
濱田先生は運動部を贔屓したりすぐに怒鳴り散らすことから怖いことで有名だったが、その目は本当に冷たい目で殺されるのではないかと背筋が寒くなるほどだった。
その一件からやはりあの部室の事件には何かあると、危険を顧みずに部室について図書室で調べていたときに校長先生と会ったこともあった。
その際に「何か調べ物ですか?」と肩にポンと手を置かれた。
と同時に手にものすごい力が加えれていくのがわかった。
「余計なことを調べるな」「これ以上調べればどうなるかわからないぞ」という無言の圧力を感じた。

それを皮切りに何故か学校中、果ては地域の人たちの朝倉さんを見る目が冷たく変わったように感じた。
どことなく監視されたり無視されているようで周りの人間も「余計な詮索はするな」と言わんばかりの雰囲気だったらしい。
それは朝倉さん自身だけでなく両親にも飛び火したらしく「このままだと家族全員村八分だ!」と叱責されたため、高校生ながら「あ、これは触れてはいけないことに触れた」と思い在校中は「開かずの部室」の件から手を引かざるを得なかったという。

大学進学後に地元から離れてからわかったことだが、学校は「ある事実」を隠していたようだと同じように地元を離れた同郷の人間から聞いた。

学校や教育委員会は野球部を贔屓していた。
地域には野球部の後援会もあり、この後援会がかなり発言力を持っていたため部費や後援会費を優先的に野球部に流していたという。
ただ部活の実力はといえば地区予選で一回戦を突破できればいいという弱小野球部だった。
しかし、後援会や学校の後押しがあり実績も実力も無いにも関わらず優遇されてつけ上がっていた。
それは朝倉さんの在校中も目に余るほど酷いものだったという。
学校は学校で地域の企業と癒着して野球部員の就職を斡旋しており、企業も野球部OBが仕切っているため相互依存のような状態だった。
それによって就職率で学校の体裁を保つような体制が出来上がっていた。

それに壁に書かれた名前の「○○」ちょうど女子生徒が亡くなった年の野球部のエースで、実績こそなにも残していないが、野球部のエースという肩書きだけで卒業後の進路は地元の有力企業への就職が決まっていたとのこと。
朝倉さんが町を離れてから聞いた話では自殺した女子生徒は妊娠していたらしいということもわかった。
もしこの事件が明るみに出れば、就職の話は全て白紙になり学校の評判が落ちることは火を見るよりも明らかである。
そのために学校や後援会は箝口令まで敷いて吹奏楽部の事件の事実をひた隠しにしていたというのだ。

つまり学校どころか地域ぐるみで部室での事件を隠蔽していたことになる。

となると、あの部室の血痕が消えない理由は女子生徒のあまりにも浮かばれないその魂が引き起こしているのではないだろうか。
もし地域ぐるみで彼女の事件をなかったことにしようとしているなら、彼女の魂は永遠にあの暗い部室に縛られて閉じ込められ続けるのだろうか。

両親が亡くなり、ようやく朝倉さんとあの町との関係が完全に切れたので厄落としもかねて自分に話してくれた。

ちなみにこれは余談になるが、名指しされていた「○○」という人物、地元の有力企業の役員となり現在では結婚して子どもが2人おり、野球部後援会の会長をやっていると風の噂で聞いたという。

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