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インボイス制度を翻訳会社に悪用されたら、どうしますか?                 ー不当な値下げ、インボイス登録強要ー

インボイス制度、フリーランスにとっては地獄の制度です。
免税業者のままでいて、依頼が減るかも、単価を下げられるかもという不安・恐怖と闘い続けるか、それともインボイス登録業者になり、煩雑な消費税申告をして収入の何パーセントか(翻訳者は、簡易課税制度にすると年収の5%)を納税し、減収に耐えるか。
どちらも選びたくないし、どちらも地獄。

そして、今年から始まると予想されるのが、「インボイス制度に登録しないと次から依頼しない」「免税業者には消費税を払わない」などの発注元の理不尽な要求です。これ、全部法に触れる行為ですが、弱い立場のフリーランスに全部押し付ける発注元、たくさんいるでしょうね。

なぜなら、発注元はインボイス制度についてちゃんと知らないんです。悪用しようという会社もありますが、多くは税理士などに丸投げして、アドバイス通りにしているだけ(または、検索したブログをうのみにしているか)。
これに対向し自分の生活を守るためには、しっかり対策を立てておきましょう。私は翻訳者なので、翻訳会社との間で想定されそうなトラブルを想定してみます。

Case 1:インボイス制度に登録するよう強要

突然、翻訳会社から「インボイス制度について」という一斉メールがくる。内容は「免税業者との取引はしない方針」なので「今年中にインボイス制度に登録するように」というもの。「決めかねている」と返事した。
しばらくして、プロジェクトマネージャー(PM:普段連絡を取る案件の担当者)から「もう8割の登録翻訳者がインボイス登録を済ませたけど、ぶみにゃんごさんはどうしますか」と催促。「強制ではないですよね?」と確認すると「でも、来年から依頼できなくなります、残念です」との回答。どうしたらいい?

Case 2:消費税分の値下げを要求

案件の依頼の際に、PMのメールに「免税業者には消費税を払わないことになりました」と書いてあった。「値下げはおかしいのでは」と主張しても「会社の決まりですから」と返信があっただけ。案件を逃したくないし、どうしよう。

インボイス制度では「免税の翻訳者が消費税を請求できなくなる」のではなく、「翻訳会社が消費税納税分から免税業者の分を控除できなくなる」んです。それを理由とした値下げ要求や登録の強要は、独禁法・下請法で禁止されています。

法的根拠と相談窓口

インボイス制度を理由にした発注元の理不尽な要求は、独禁法・下請法では「優越的地位の濫用」といいます。発注する方の強い立場を間違って使っているということです。資本金1000万円だから下請法が適用されないと言ってくる翻訳会社もありますが、いずれにせよ独禁法は適用されます。キーワードは「公取委に相談」です。覚えておいてください。

①まずは、公取委の「優越的地位の濫用規制に関する相談窓口」の地方担当(invoice_qanda.pdf (jftc.go.jp) の15ページ参照)に電話相談してください。そして「公取委に相談する」ということを相手に伝えましょう。
②繋がりにくい場合、契約、未払い、ハラスメントなどのトラブルも含む場合は、フリーランス・トラブル110番へ(freelance110.jp)。弁護士に無料で相談できる厚生労働省の事業です。
③法人成りしていたら、下請かけこみ寺へ(zenkyo.or.jp)。相談員や弁護士に無料相談できます。 中小企業のための制度ですのでしっかり活用してください。

「正式に相談する」だけで態度が変わる翻訳会社が多いです。PMは詳細が分からないので同じ主張を続けるかもしれませんが、その場合は上長か法務部に確認して返事をしてほしいと主張してください。
翻訳者に一方的に負担を押し付ける翻訳会社とは一緒に働くのが難しいので、取引停止しても構わないという気概が必要です。また相手が態度を変えてきた場合は、様子を見ながら取引を続けてください。板挟みになったPMにはお礼を(タッグが組めるようになったら、一番の収穫かも♪)。

インボイス制度を知って、法を活かす

こんな面倒が予想されるインボイス制度。ふんだりけったりですね。政府はとにかく免税業者をなくして消費税を増やしたいんです。税率アップしたら国中から反対されますが、インボイス制度ならフリーランス300万人だけだし、労働組合もなくてバラバラ。ちょろい相手です。
だからこそ、私たちフリーランスは、法を知り、救済制度・相談窓口を利用し、発注元と粘り強く交渉しなければなりません。リソースを挙げておきますので、お時間のあるときやトラブルが起きたときに読んでください。相手にリンクを送るのも効果的です。

翻訳会社が求めてきそうな無茶な要求を知り、その要求を許さずフリーランスを守ってくれる法律等を学ぶには、「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」がおすすめ。概要はコンパクトにまとまっています(20210326005-2.pdf (meti.go.jp)

フリーランス協会のこのニュースもわかりやすいです。
「インボイス対応で取引先から課税事業者への転換を要請されたら… 」
【お知らせ】インボイス対応で取引先から課税事業者への転換を要請されたら… | フリーランス協会ニュース (freelance-jp.org)

インボイス制度そのものを知るのも大切です。「翻訳会社の無茶な要求」にも実は理由があって、免税業者に払った消費税が控除されないために翻訳会社の負担が増えるのです。政府の方針は、①「翻訳者は登録して消費税を納税し、翻訳会社はその分レートを上げろ(クライアントへの料金交渉も含む)」、または②「翻訳者は免税のままで、翻訳会社の値下げ交渉にある程度応じろ、翻訳会社は丸々負担を翻訳者に押し付けるな」です。とにかく、翻訳会社か翻訳者が消費税を負担すればいいのですから…
今後、レート交渉の鍵になりそうなのは、「インボイス制度実施に当たっての経過措置」(https://www.nichizeiren.or.jp/wp-content/uploads/invoice/invoice15b.pdf)です。2023年からいきなり免税業者の分の控除がゼロになる(翻訳会社の負担増)のではなく、3年間は80%、次の3年間は50%控除できる(翻訳会社の負担減)のです。これは値下げ交渉が来た場合や、インボイス登録した後のレート上げ交渉に使えますので覚えておいてください。

インボイス制度について他にできること

インボイス制度に乗じて無茶な要求をする翻訳会社があったら声を上げてください。同業者に相談してください。あなたの声が他のフリーランス300万人の力になります。 SNSの力は侮れませんよ。

政府側だけでなく、フリーランスの立場からインボイス制度を学ぶ勉強会が開かれています。参加して質問することがまずは第一歩。ベテラン翻訳者に消費税導入、税率アップの際の攻防戦について聞くのもいいと思います。

インボイス制度反対のキャンペーン(街頭でのデモ、Twitterのデモ、署名など)に参加するのもいいですね。消費税反対の活動もありますので探してみてください。インボイス制度を取り上げている労働組合も増えてきたので、協力し合えると心強いですね。

所属団体に、セミナー開催やキャンペーンの展開について粘り強く交渉して見てください。翻訳者も翻訳会社も損をするのがインボイス制度。翻訳会社のPMさんやお偉いさん、制度についてほとんど知らない状態で翻訳者に要求、反論され交渉することになるので、一緒に勉強しませんか。

そして選挙!インボイス制度について政党や候補者の主張を確認してから投票してください。日本の選挙権がない翻訳者の人、話題に出してもらうだけで周囲の人が変わります。よろしくお願いします。

他に、海外との取引を増やす(そもそも消費税の対象外)、取引先の取捨選択、翻訳以外の収入源確保なども並行して行っていかなければ。大変です。

長文を読んでいただきありがとうございました。ご質問、ご相談があれば、Twitter ぶみにゃんご(@bumicchu) までDMをください。

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