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お金と民族性の良し悪し

「お金に関してはっきりものを言えない、日本人の体質は良くない」

ビジネスインフルエンサーを中心に昨今そうよく言われるが、武士は食わねど高楊枝、という、日本人特有の心意気は好きである。

アメリカのプレゼント精神は「素晴らしいものをあなたにあます」だが、日本は「つまらないものですが受け取って下さい」になる。

アメリカと日本。

獲物を狙って狩りに行く狩猟民族と、種を撒いて収穫を待つ農耕民族。

農耕民族に、明日から狩猟民族になれと言うのは難しいが、時代に合わせて少しずつ変化はしてきていると思う。ただ、これまでの民族性を、完璧にリセットすることはできない。

ある日、自分のおでこに、円形の膨らみがあることを確認した。

なんだこれ。

YouTubeをやっていると、こういうとき便利で、この謎の腫瘍は、いつからあったのか、自分が出ている動画を振り返りながら確認できる。

どうやらこれは、2019年頃からあったようだ。

10代の頃は、一日に何度も自分の顔を鏡で見て、写真映りを死ぬほど気にした。それが30も半ばを過ぎると、あまり自分の顔を見なくなった。自分の(YouTube)動画もあまり見たくない。見るほどにがっかりして、削除したくなるような衝動に駆られるからだ。

そのため気づかなかったが、なんと数年も前から、このたんこぶのようなものが、おでこにあったのだ。少しずつ膨らみながら。

指で触っても痛くもなんともない。感触としては、ぶよぶよしている。

ヤバイ病気なのかと思い、とりあえず皮膚科で診てもらった。

「脂肪腫だろう」と言われた。

良性の腫瘍で、放っておいても問題はないが、大きくなることはあっても自然に消えることはないので、取り出すには手術しかないという。

ヤバイ病気じゃないならいいや、と一安心し、そこからまた気にならなくなった。手術とか怖いし。いいや、放置で。

それから2年。

脂肪腫はさらに大きくなり、しまいにはもう一つ現れた。

さすがにおでこにたんこぶが2つもあれば、おじさんでも気になってくる。大きくなればなるほど、取った後の傷跡も目立ちやすくなるという。

街を歩いていると、人のおでこにばかり目が行く。いいなあ、みんな脂肪腫なくて。

恋愛同様、気になったら負け。このままではそればかり気になってしまい、他の作業がおぼつかなくなる。こんなおでこのたんこぶに、俺の人生狂わされてたまるか。

もう取る。

手術してやろうじゃないか。

仕事が落ち着いたタイミングで、上野アイシークリニックに行った。ここは、有吉弘行さんがおでこの脂肪腫を取るために行った病院で、テレビで紹介されていたところだ。

結果、7回通うことになった。工程は以下の通り。

1.受診
2.手術(一個目)
3.ドレーン抜き
4.抜糸
5.手術(二個目)
6.ドレーン抜き
7.抜糸

手術は、おでこに局部麻酔をして、ぐりぐり押し出すように腫瘍を取っていく。キレイな女医さんだったが、とんでもない力でおでこを押してくる。

胃カメラをやるときは、とにかくエロいことを考えるようにしている。

力を入れてしまうと、喉から入ってくる管を身体が押し返そうとして、余計苦しくなる。なので、とにかく力を抜かないといけない。

しかし、口から管が入ってきてるのにそんな簡単に脱力することはできない。無心にもなれない。ならばエロいことを考える。これしかない。怖がりスケベの私が編み出した、胃カメラ対策法である。

これは今すごいエロいことをされているんだ。このときもそう考えようとした。しかし、どうにも脳が切り替わらない。すんげえ押される。ヤバイのか。難しい手術なのか。うまく行ってるのか。ああ怖い。

いや考えるな。考えたところでどうにもならない。考えるな、感じろ。

でも痛い。

くそ。俺のエロはその程度か。負けるな俺のエロ。

20分程すると手術は終わり、そこから縫合になる。丁寧にガーゼを貼ってもらい、合計30分程度で終了。

手術後はドレーンという、血が固まらないようにする管をつけるので、翌日取ってもらいに行く。そして10日後に抜糸。保険の関係で、一ヶ月に一個までしか取れないというから、このセットを月をまたいで2回やることになった。

手術費用は保険適用で1万4,000円(大)、9,500円(小)。払えない金額ではないが、安い金額でもない。

「生命保険に入っていますか?」

帰りの受付でそう聞かれた。

「保険が下りることがあるので、入られている保険を一度ご確認頂くといいと思います。その場合、診断書を発行しますので、こちらの用紙もお渡ししておきますね」

渡された用紙には、診断書発行に一点9,000円かかるとの記載がある。自分の場合は二回やってるから、18,000円。なんで診断書の発行にそんな金額がかかるのか、自分には分からない。

郵便局のかんぽ生命に入っている。帰宅するなり保険証券を探す。そこには、「入院日数×○○円」と書かれていた。今回はどれも日帰り手術だから、ダメかな。

とりあえず電話してみる。

「下りますよ」

えっ

「でもこれ、入院日数×いくら、って書いてあって、僕入院してないんですけど、本当に下りるんですかね?」

あんた間違ってない? 診断書発行に2万かかるんだから、後々、やっぱり下りませんわ、だとシャレにならんぞ。

「入院日数によって金額が変わるということを記載しているだけで、お客様が入られている保険は、日帰り手術も適用になります。お客様の証券番号できちんと照会していますので、ご安心ください」

それでも聞いておきたい。

「そうですか。でも、いくらいくらい下りますかね。えーっと、あの、というのもですね…」

日本人特有の習性が出る。金にがめついと思われたくない。言葉に詰まる。

なにせ、診断書発行に2万だ。保険で1万出ますよ、良かったですね、わーい、やったー、お姉さんありがとう、にはならない。赤字だ。

「そうなんですよね。なので、診断書なしで保険が適用になるように、この4月から変わったんです。病院で診療明細もらってますよね?それでOKです」

かんぽグッジョブ。

今年の4月からと考えれば、図ったかのような幸運となった。

感謝せねばならない。

私と同じような道を辿り、結局赤字じゃねえか、なんだこの保険、という数多の人たちの上に、今の私が成り立っているということを。

もしかしたら診断書費用も、それまではかんぽ生命が持っていたのかもしれないが、仮にそうじゃなかったとしたら、誰もこの保険を使わないはずで。

話を聞くと、検査代や抜糸にかかった費用は適用にならないが、手術費用は全部下りそうであった。

「とりあえず、全部終わったら、保険証券と診療明細まとめて全部持って、お近くの郵便局の窓口へ行ってください。その際に、ハンコと身分証明書と…」

上野までの交通費や、薬やガーゼ代を考えると、完全にプラマイゼロというわけにもいかないが、ちょっとの支出で済みそうだ。農耕民族でも、聞くときは聞かねばならない。

しかしそれでも、「ちょっと聞きにくいな」、と思う日本人特有の気弱さは、私は嫌いになれない。

※補足
脂肪腫の手術費用は部位や大きさによって違うし、保険も、入っている内容や掛金によっても違うので、金額面はそのまま参考にはしないようお願い申し上げ奉る。

8割の流儀・鷺谷政明

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