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正欲

お盆に4日間、大阪で講習を受けていた。大阪市からは離れた場所でホテル缶詰め、夜は溜まった作業を進めようと思っていたのだけど、迫り来る台風前に「帰れるのか?」と気持ちが落ち着かず、作業が進まない。諦めてホテル横のTSUTAYAで本を購入した。桐島、部活やめるってよ と 何者は読んだことがある。本作は話題でよく目にしていたので、手に取った。

登場人物を取り巻く状況が丁寧に描写されており、場面が適度に入れ替わりながら展開し、飽きずに一気に読めた。

解説で東畑開人さんが書いていたように、私もカウンセリングの場面で、相手の方に上手く関われず怒りを向けられたり、突然連絡が取れなくなったことがある。情けなさと悲しい気持ちに苛まれながら、相手はもっと悲しかったのだろうと思いを馳せた。いつも、難しい。

多様性を簡単に片付けまいと、敢えて極めてマイノリティな対象を取り扱ったのだと思う。私は正欲であり彼らの言うノーマルであり、どんなに思いを馳せてもわからない。
でも、マイノリティだから特別ということもなく、多数派に括られる人々も含めどんな1人も、日々傷つき、悲しみ、幾重にも重なる複雑な出来事に折り畳まれるように向かう方向が決められ、抗うことも知らずに生きている。

この本の主題は、他者をわかったつもりになることの危うさ、そうした奢りへの警鐘かと思う。
わからないからこそ、謙虚に歩み寄る。精神的な繋がりなんて偉そうに語るな、ただ、ただ、物理的に近くにいる、或いは近づかず思いを馳せる。

悲しみ、憎しみが蠢めくのだけれど、どんな1人も、孤独を最良とはせず、人とともに在ることをポジティブに捉えていたことは、希望だった。





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